赤く染まった顔が、こちらを向く。
雅志先輩のこんな顔は、初めて見た。
それでも、雅志先輩はポケットの中の手を離してはくれなくて、
ガチガチにかたまったままの私は、その手を握り返せなかった。
*
本堂までの石段を上がり、参拝客の列に並ぶ。
同じくらいの年頃の男女や、親に連れられた中学生くらいの顔立ちが、多く見える。
順番が回ってきて、お賽銭箱の横に書いてある、参拝の形式を見ながら、それに倣うことにする。
鈴緒を両手でつかんで揺らすと、ガラガラと大きな音が鳴った。
*
お参りを済ませ、本堂から立ち退く。
すぐそばで、お守り、おみくじ、絵馬や御札が売っているところを見つけて、立ち寄ることにした。
昔ながらの、いかにもなお守りという風貌のものから、バッグチャームやストラップとしても違和感のないような、可愛いものまで、様々。
お守りは、学業の他にも、安産、健康、勝利、夢など。
幸福と書かれた、誰にでも対応出来そうなものまである。
*
お守りを買い終えて、後ろを向くと、そこに雅志先輩はいなかった。
キョロキョロと見回すと、少し離れた場所に後ろ姿を見つけた。
名前を呼ぼうとしたら、すぐ近くに、女の子の三人組がいることに気づいた。
頬を染めて見上げる女の子たちと、少し困ったように笑う雅志先輩。
罰当たりな気が、しなくもない。
そんな人が、私を好きだと言ってくれた。
別れた今でも。
物語のような出来事。
現実感がない。
視線に気づいたのか、雅志先輩が私の方を向いた。
嬉しそうに笑う顔に、胸がドキッと跳ねた。
ずっと、不思議に思っていることがある。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。