第20話

好きの理由
6,071
2021/12/18 04:00
三笠 雅志
三笠 雅志
ごめん、知らない子たちにつかまっちゃって
一宮 みこ
一宮 みこ
いえ……。私も、お守り選ぶの、遅かったから
私の元へ駆け寄ってくる雅志先輩の後ろで、取り残された女の子たちが、私を睨んでいる。
一宮 みこ
一宮 みこ
(こわ……)
三笠 雅志
三笠 雅志
買えた?
一宮 みこ
一宮 みこ
はい。可愛いのにしました
三笠 雅志
三笠 雅志
ずいぶん多いね。全部合格祈願? 心配性だな
雅志先輩は、私の手元にある、小袋三つを見て、笑う。
一宮 みこ
一宮 みこ
あ、私のはひとつだけで
一宮 みこ
一宮 みこ
……よかったら、どうぞ
三つあるうちのひとつを、雅志先輩に渡す。
一宮 みこ
一宮 みこ
ここまで連れてきてくれて、付き合ってくれた、……お礼? に、なるかは分かんないですけど……
雅志先輩が小袋から取り出したお守りは……
三笠 雅志
三笠 雅志
『幸福』?
一宮 みこ
一宮 みこ
どれにしようかなって迷ったんですけど、それが一番お得っぽかったから
雅志先輩が将来やりたいことがあるかは分からないから、『夢』は、あげられない。

大学生も学生ではあるし、私と同じく『学業』でもよかったかもしれないし、
元気に越したことはないわけだから、『健康』っていうのも、有りではあるけれど、

色々考えた上で、無難な『幸福』になった。
三笠 雅志
三笠 雅志
ありがとう
三笠 雅志
三笠 雅志
みこって、高校の時にも、試合前に皆にお守り作って、渡してたことあるよな
一宮 みこ
一宮 みこ
そういえば、そんなことしてましたね
三笠 雅志
三笠 雅志
あれがあったから、僕はみこが好きになったんだ
一宮 みこ
一宮 みこ
……
一宮 みこ
一宮 みこ
え?
三笠 雅志
三笠 雅志
あの試合は、僕にとって大事なものだったんだ
三笠 雅志
三笠 雅志
監督にも、仲間にも期待をかけられて。僕が全部何とかしなきゃって、そればっかり考えて、プレッシャーを感じてた
三笠 雅志
三笠 雅志
でも、みこが笑ってお守りをくれたから。だから、頑張れた
一宮 みこ
一宮 みこ
……初めて知りました
三笠 雅志
三笠 雅志
うん、言ったことなかった
優しい笑顔を向けられて、直視できない。
一宮 みこ
一宮 みこ
(お守りを作った時から……? それって)
一宮 みこ
一宮 みこ
(だって、その時、まだ私は、雅志先輩に恋をしていなかった)
一宮 みこ
一宮 みこ
(そんなに前から?)
一宮 みこ
一宮 みこ
あの、私……
三笠 雅志
三笠 雅志
あー、ごめん
三笠 雅志
三笠 雅志
受験終わったあとにって言ったの、僕の方なのに
三笠 雅志
三笠 雅志
今の、なかったことにして
一宮 みこ
一宮 みこ
でも……
三笠 雅志
三笠 雅志
いいんだ
一宮 みこ
一宮 みこ
はい……
返事をしようとしたわけじゃない。
ただ、もう一度謝りたくて。
雅志先輩は、ちゃんと想ってくれていたのに。

勝手に勘違いをして、一方的に別れを告げた、あの日のことを。
三笠 雅志
三笠 雅志
帰ろうか
一宮 みこ
一宮 みこ
はい
三笠 雅志
三笠 雅志
そういえば、お守りあとふたつあるけど、ひとつは友達にあげるとか?
一宮 みこ
一宮 みこ
これですか? 修斗くんに渡そうかと思って
雅志先輩が、ピタッと立ち止まる。
三笠 雅志
三笠 雅志
……五十嵐?
一宮 みこ
一宮 みこ
はい。『勝利』っていうお守りも、あったので。修斗くんに、ピッタリだったから
三笠 雅志
三笠 雅志
なんで五十嵐にだけ?
一宮 みこ
一宮 みこ
さすがに、全員分は買えないです
三笠 雅志
三笠 雅志
じゃなくて
一宮 みこ
一宮 みこ
じゃなくて?
三笠 雅志
三笠 雅志
……
三笠 雅志
三笠 雅志
いや、なんでもない。帰ろう
一宮 みこ
一宮 みこ
自分の買った、お守りの小袋を眺める。
一宮 みこ
一宮 みこ
(修斗くんだけに買った理由?)
一宮 みこ
一宮 みこ
(一番仲いいし、それに……)
一宮 みこ
一宮 みこ
(あれ? 言われてみれば、なんでだろう)
お守りに書かれてある『勝利』を見たら、その時にはすでに手に取っていた。
一宮 みこ
一宮 みこ
(……まあ、いっか。買っちゃったし)
私は、少し速く歩く雅志先輩の後ろを、小走りで追いかけた。

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