第26話

合格発表日
5,372
2022/01/29 04:00
長かったような、短かったような、不思議な気持ち。
今日はついに、受験当日。
ママ
忘れ物ない? 受験票は、ちゃんと持った?
一宮 みこ
一宮 みこ
大丈夫だよ。全部、昨日のうちに準備したし
ママ
みこなら大丈夫よ。頑張ってね
一宮 みこ
一宮 みこ
うん。いってきます
家を出て、深呼吸をしながら、最寄り駅までの道を歩く。
一宮 みこ
一宮 みこ
(緊張する……)
一宮 みこ
一宮 みこ
(多分、高校受験の時よりも、何倍も)
──ピコンッ。
制服のポケットに入れたスマホから、メッセージの通知音が鳴る。
三笠 雅志
三笠 雅志
『受験頑張って。落ち着いて受ければ、きっと大丈夫だから』
雅志先輩は大学が休みだから、今日は入口まで私についていてくれようとしたけど、
さすがに、それは甘えすぎだと思って、断った。
その代わり、メッセージを送ってくれたのだろう。
一宮 みこ
一宮 みこ
『ありがとうございます。頑張ります!』
可愛い猫のスタンプも送って、画面を閉じる。
雅志先輩の家庭教師のバイトは、先週で終わった。
それからも、ずっと私のことを気にかけてくれている。
一宮 みこ
一宮 みこ
(本当に、優しい人)
一宮 みこ
一宮 みこ
(そんなこと、ずっと前から知ってたはずなのに)
一宮 みこ
一宮 みこ
(なんで、信じなかったんだろう)
自己嫌悪におちいりながらも、前に進む。
──ピコンッ。
一宮 みこ
一宮 みこ
またメッセージの通知音が鳴って、スマホ画面を開いた。
一宮 みこ
一宮 みこ
(言い忘れ?)
一宮 みこ
一宮 みこ
相手は、雅志先輩じゃなかった。
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
『頑張って下さい』
五十嵐 修斗
五十嵐 修斗
『みこ先輩ならきっと大丈夫です』
脳内では、いつもの明るい声で、勝手に再生される。
一宮 みこ
一宮 みこ
(大学合格する気あるの? なんて、言ってたくせに)
通学かばんの中で、お守りの鈴が、チリンと鳴る。
一宮 みこ
一宮 みこ
ありがとう。頑張る
スマホを握って呟いて、前を向いた。
そして、やってきた合格発表の日。
来て欲しくなかったような、早く結果を出して欲しかったような、
そんな気持ちで、今日をむかえた。
合格発表へは、家庭教師ということもあって、雅志先輩が一緒についてきてくれることになった。
大学までは、電車で移動。
受験日よりも、さらに緊張をして、体中がガタガタと震える。
三笠 雅志
三笠 雅志
みこ、大丈夫? 寒い?
一宮 みこ
一宮 みこ
だだだだ大丈夫です……! めちゃくちゃ緊張してるだけですすすす
三笠 雅志
三笠 雅志
声まで震えてるもんな
雅志先輩が、隣で苦笑いをする。
合格発表が書かれた大判の紙は、もう目の前。
私と同じく、受験生がたくさんいて、ごった返していて、見えない。
三笠 雅志
三笠 雅志
番号は? みこじゃ、あそこまで行けないだろうから、僕が見てくるよ
一宮 みこ
一宮 みこ
に、205番です
三笠 雅志
三笠 雅志
分かった、待ってて
一宮 みこ
一宮 みこ
は、はいっ!
雅志先輩が人並みをかき分けて進むのを、手を組んで祈りながら、目で追う。
雅志先輩が先頭に出る。
頭が動いている様子から、番号を探しているのが分かる。
自分の胸の音が大きすぎて、周りの喧騒けんそうが、少しも耳に入らない。
雅志先輩が、こちらを向く。
何かを発していることだけは見えるけど、肝心の声が聞こえない。
一宮 みこ
一宮 みこ
(あったの? なかったの?)
不安に飲み込まれそうになった時、雅志先輩が両手を上げて、大きな丸を作った。
一宮 みこ
一宮 みこ
……本当?
雅志先輩が、また口を動かす。
相変わらず、こちらまで声は届かないけれど、確かにこう言っていた。
『おめでとう』

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