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第22話

最終話 永遠の愛
71
2023/05/26 13:19



織姫おりひめ彦星ひこぼし



七月七日に、たった一度しか出逢えなかった運命の二人。


長い時を経て、ふたりの恋物語は再び時を刻みはじめた。



再会の約束が果たされてから、数日後――



あたしはいま、彦星と共に夜の空の中にいる。


一面、見渡す限りの星だった。

宝石をばらまいたみたいにきらめきは絶えない。

空気がとても澄んでいるから、呼吸をするのが気持ちいいくらい。




星空をふたり、手をつないで歩く。


織姫
空を散歩できるなんてすごいね
織姫
ちょっと怖いけど
彦星
心配いらないよ
彦星
こうしてしっかりと手を繋いでいるし



彼はそう言って、あたしの手を包む指にギュッと力を込める。


ギュッとされると、気持ちが伝わってくるみたいでうれしい……。

彦星
俺の体にかけられた術の効力が消えるまで、
こうやっておまえを好きなところへ連れて行ける
織姫
不思議な力は、いつかは消えてなくなっちゃうんだね
彦星
そうだな。
力はなくなって、普通の人間になる
彦星
特別じゃなくなるのは、嫌か?
織姫
ううん。
特別じゃなくたっていい

織姫
(あなたがいてくれることが、あたしにとっては特別だから――)



恥ずかしくてとても口には出せないけれど、心からそう思う。

気持ちが沈まずに輝いていられるのは、彼がいてくれるから。


もし彼がいなくなってしまったら、また色褪いろあせた日常にたちまち引き戻されてしまうだろう。

織姫
(もう離れ離れは、嫌!)
織姫
(こうしてずっと、彼のそばにいられますように――!)


月の光を見つめながら、あたしは心に強く願う。


かつて彼との仲を引き裂かれたときに、幾多の星を眺めながら願ったように。


彦星
月に興味があるのか?
近くに行きたいなら、連れていくぞ?
織姫
ううん、いいの。
この空だけで充分だよ


彼はあたしが空に行ってみたいと言ったら、その願いを叶えてくれた。

地上をふわりと飛んで、あたしを上空まで連れて来てくれた。


普通じゃ決して味わえないようなことを、あたしのためだけにやってくれる。

彦星
ここ以外にも、行きたいところがあれば遠慮なく言ってくれ
織姫
……けど、誰かに見られたら、大騒ぎにならないかな?
彦星
それなら気にしなくていい。
おれたちの姿は、誰にも見えないから
織姫
えっ!? 
見えないの!?
彦星
ああ、そうだ。
誰の目から見ても、まったくの透明にしか見えない
彦星
だからこんなふうに――
彦星
織姫に近づいてキスしようとしても、誰に見咎みとがめられることもない


彼はあたしを抱き寄せてキスしようとする。

織姫
ちょっ――!?

条件反射的に体を反らし、慌てて顔をそむけた。
織姫
恥ずかしいから、ダメだって!
彦星
なんだ、冷たいな~。
顔はこんなに赤くて熱いのに


あたしの頬に手を触れ、ふっと微笑む。

織姫
っもう! 
そーゆうコトを言わないでよぉ
織姫
(あ~~~もう、恥ずかしい……!)


いきなり迫られると、すぐ照れてしまう。

結局、あたしはあたしのまま。織姫だった頃の記憶を取り戻しても、根本的な部分は変わらない。



恥ずかしすぎて真っ赤になった頬を、彼の指先と、冷えた夜風が気持ちよくでる。


きれいな顔がすぐそばにあった。
彼の整った面差しは、月明かりに照らされて、いつも以上に研ぎ澄まされた美しさを放っている。


つい見とれてしまったけれど、見つめ返されると目が泳いでしまう。


視線を移せば遥か先に、夜の街並みが見えた。
地上はすごく遠くて、たくさんの明かりが輝いていて、広大なガラス細工みたい。

織姫
あの小さな川のある辺りが、ウチの家のある場所かな
彦星
かもしれないな


ここ数日、ふたりで一緒に過ごしてわかった。

彼といると、見飽きてしまった景色すらもまぶしく見える。


たとえそれが近所のさびれた風景でも、退屈していた学校でも――。
織姫
愛しい人といるだけで、こんなに世界が変わるなんてね
彦星
ん?


吹きつけた風に、かすかなつぶやきは流されていく。

織姫
ううん、なんでもない

あたしは微笑みながら、地上にあまねく彼方かなたの光に目をやった。

織姫
あたしがこんなところにいるって知ったら、
親もきっと驚くだろうなぁ
彦星
実の親じゃないが、
織姫を育ててくれたことには感謝しないとな
織姫
そうだね。
ろくな親じゃないけど


笑いながらあたしは答える。

こんなふうに心に余裕ができたのも、彼と再会して、自分の素性を知ることができたからだ。


織姫
ねぇ、彦星
彦星
どうした?
織姫
空からいろんなものを眺められるなんて、ステキだね
彦星
よかった。
やっと喜んでくれた
織姫
え、そんなふうに見えなかった?
彦星
不安そうというか、なんというか
織姫
あああっ……ごめんね!
織姫
怖がるつもりじゃなかったんだけど、
人として生活してた時間が長かったせいか、まだこういうことに馴染めなくて
彦星
いや、いいんだ
彦星
それより、
喜ぶ織姫の顔をもっと近くで見ていたいな


彼の胸に抱き寄せられる。顔や体がフワッとしたぬくもりに包まれる。

あたたかくて、気持ちがいい……。

織姫
……あたしには、
こんな空のデートなんて、贅沢ぜいたくなくらいだよ
彦星
贅沢?
織姫
うん。
昔はここよりもっと高い所で暮らしていたのに、
すっかり地上の生活に慣れちゃったみたい
彦星
フフッ、
それなら好都合だ
織姫
どうして?
彦星
そのほうが、
おまえにたくさん贅沢な思いをさせてあげられるからな
織姫
彦星……
彦星
やっと出逢えたんだ。
いままでふたりでできなかったことを、たくさんしていきたい


あたしの耳に彼の吐息交じりのささやきが伝わってくる。

そんなふうに思ってくれるだけでうれしい。胸のときめきが止まらなくなる。

織姫
これからは一年に一度きりじゃなく、
ずっと一緒にいられるんだね
彦星
ああ。
ずっと一緒だ


ふたりの想いを体で結びつけるように、指を絡め、しっかり両手を握り合う。

彦星
七月七日が過ぎて、秋になって冬が来ても
彦星
来年になって、春が来ても
織姫
ずっと一緒にいられる――


もうふたりをへだてるものはない。


あたしたちは、ようやく自由になったんだ。


彦星
人間として生き続ける限り、いずれ命は尽きるだろう
彦星
だが命に限りはあっても、想いは永遠だ


永遠をカタチにするように、彼はあたしをじっと見つめた。

そのまなざしをあたしは受けとめる。

彼の神秘的な瞳、形のいい唇、きめ細やかな白い肌、均整の取れた体、なにもかもが愛おしい。



だけど一番好きなのは、彼の心にある、情熱。

世界中を巡ってあたしを見つけ出してくれたのも、その情熱があったから。



どんなに逆境だらけでも、恋心はついえなかった。

たとえ姿形は変わっても、心の中に深く根づいた気持ちは、カタチを変えずにずっと生き続けている。

彼はいつだってまっすぐな気持ちで、あたしを想ってくれる。


織姫
あなたのことが好き
織姫
これからもずっと
彦星
俺もだよ
彦星
永遠におまえだけを愛してる



熱い想いに引き寄せられる。

触れ合う唇。

やさしい風がそっと通り抜けていく。



もう独りじゃない。
あなたとふたり、歩いて行ける。




銀河にきらめく天の河のように長く果てしなく、



どこまでも、どこまでも――

















































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