第21話

6-1 蘇る想い
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2023/05/10 10:49


七氏或汰
織姫おりひめ……
 
 彼はあたしの手を握る。

七氏或汰
もう離さない――

 その言葉どおり、指先を絡めてギュッと握りしめる。

織原みどり
(うれしい……)
織原みどり
(こうして彼に触れられて)
織原みどり
(大好きな人に、再びめぐり逢えて――)


 ふるえる胸。喜びが湧きあがる。

 まるで枯れることを知らない泉みたいに、とめどなく感情が溢れて止まらなくなる。




 あたしはいままでずっと一人きりだった。

 恋の世界なんて、呆れるほどに色せていた。

 それがみるみる変わっていく。

 輝く陽射しを浴びて、暗闇が失われた色彩を取り戻していくように――




 これまで彼と共に築かれた思い出の数々が、頭の中にふっと湧きあがってかけめぐる。






 遠い昔、ふたりで愛を誓ったこと。

 天の川を隔てて、バラバラに引き裂かれてしまったこと。

 ふたたびめぐり逢えることを祈って、互いに手をつなぎ、天から地上へ落下したこと。




 星屑のような記憶の断片は淡い光となって――キラキラ、キラキラと……浮かびあがっては一つの形になっていく。

 天の河の流れる青い世界に、光のかたまりが出来上がっていた。


 塊はみるみる膨らみを増し、目のくらむような閃光を放つ。

織原みどり
――――!


 光の粒が花びらのように散って、真っ白になった。


 音のない白い世界に、『特別な人』がいた。




 織姫……。


 そして、あたし……。




 光の散った先に、かつて織姫だった自分の姿と、織原みどりの肉体が重なり合って一つになる。


 ――愛しい人よ――





 ――もう一度、あなたに逢いたい――





 そうだ……あたしは……


 あたしは、どうしても彼と一緒にいたくて、人の身に転生したんだ――!










織姫
彦星ひこぼし……!
彦星
織姫……!

彦星
ついに思い出してくれたんだな
織姫
うん……


 あたしは彼を見つめたままうなずく。


 彦星と出逢った頃からをふり返りながら、ゆっくりと――。


 何千年分もの思い出がようやくかえるべきところに還ってきた。



 けれど、一番大切なのは過去じゃない。


 目の前にいる彼と、数々の思い出が、あたしに教えてくれている。




 現在いま、そしてこれからのほうが、ずっとずっと大事――。

織姫
あなたと再会できてよかった……
彦星
俺もだよ
彦星
もう何度も言っている気がするが
織姫
何度聞いてもうれしい
織姫
あなたの気持ちを、永遠にこの胸に焼きつけておけたらいいのに


 あたしの言葉を聞いて、彼は幸せいっぱいの顔になる。


彦星
大丈夫。
これからはずっと一緒にいられる
彦星
死の訪れる日まで、ふたりでたくさんの思い出を築いていこう
織姫
うん
織姫
このままずっと、片時も離れたくない……



 もう彼を見つめる瞳に一点の曇りもなかった。


 ただあなたが愛おしい。


 心にある気持ちは、あなたを想う気持ち、ただそれだけ――。




 この広い世界であたしを見つけ出してくれて、ありがとう……。



彦星
織姫……


 彼は囁くように言い、その美しい顔を近づけてくる。

 あたしは彼の手を握り返し、待ち望んだ瞬間を受け入れた。


 果実のように色づいた唇。

 重なり合う身体。

 ふたりの吐息が混じり合い、互いの想いが交差する。



 口づけによって伝わる彼の熱い想いは、心の底をはるか先まで貫くかのように、どこまでもどこまでも深く入ってくるようだった。





















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