第17話

4-4 信じがたい真実
107
2023/03/26 11:46

織原みどり
じゃあ、あの不法侵入の件はなんだったの……?
七氏或汰
すべては織姫おりひめ――おまえに逢うためだった
織原みどり
あたしに、逢うため……?
七氏或汰
ああ


 彼はあたしを見つめたままうなずく。

七氏或汰
人間に転生した頃の俺は、
いまのおまえと同じように過去の記憶を失っていた。
年月をかけて記憶を取り戻したが、
肝心の織姫がどこにいるのか、
どんな姿をしているのか見当もつかなかった
七氏或汰
俺は昔の記憶を頼りに、
天に祈りを捧げ、神に協力を求めた
織原みどり
神様に協力を……?
七氏或汰
そう、天界には神がいる。
いまは信じられないかもしれないが、天界は天女だったおまえの故郷でもあるんだ
織原みどり
うん……

 同意してみたけれど、さっぱり実感も湧かなければ信じる気持ちも起こらない。

七氏或汰
だが神の力をもってしても、
人の身に転生してしまった織姫の行方を追うのは容易なことではなかった
七氏或汰
だから神は、俺の体に特殊な術をかけたんだ
織原みどり
特殊な術……?
七氏或汰
その術とは俺の体に結界を張り、
織姫以外の人間には触れられないという制限を課したものだった
七氏或汰
だからその術をかけられている限り、
織姫ではない人間は、すべて空気に触れるかのように素通りしていく仕組みになっている
織原みどり
そうだったんだ……


 彼が自分を囲んでくる学生たちに素っ気なかったのは、余計な接触を避けるためでもあったんだ。


織原みどり
人間の体を通り抜けるだなんて、すごいね……
七氏或汰
幽霊みたいだって言いたいんだろ?
織原みどり
えっ!? 
い、いや、そんなことは……


 すいません。めっちゃ思ってました……。



 焦りまくるあたしを見ながら、彼は苦笑をらす。


七氏或汰
その代わり、特殊な術をほどこされた俺の体は、
目には見えない異空間を自在に渡り歩けるようになった
七氏或汰
その特殊能力を駆使して、
俺は最愛の人にもう一度めぐり逢うため、
世界じゅうを探索しつづけた


 最愛の人ってフレーズを聞くだけで、胸の鼓動がドキッとはねてしまう。

七氏或汰
長い道のりだったよ。
そうしてあの日、俺はついに目的の場所に到達した
七氏或汰
気になる波動を追って異空間を移動したら、
織姫――おまえにようやく再会することができたんだ……


 彼はあたしを見ながらとても満足そうに微笑んだ。彼の話についていけてないことに申し訳なさを感じるくらい、淡い瞳は喜びにあふれている。

織原みどり
……でも、どうしてあたしが織姫だってわかったの?
七氏或汰
気になるか?
織原みどり
うん……
七氏或汰
好きだからだよ
織原みどり
えっ!?

 ヤバい……! 顔が真っ赤になりそう……!


 目が合うことを避けるように、あたしはどうでもいい床や机を見つめる。


 好きって言葉は、魔法の言葉だ。
 それだけで胸がときめいて、幸せな気持ちになる。



 だけど、まだ不安なことがいっぱいで、あたしは素直になれない――。



 こんな気持ちをかなぐり捨てて、彼の胸にとび込めたらいいのに……。










プリ小説オーディオドラマ