キケンな味と香り / ep. 40
s “ わぁ ... もう真っ暗!
放課後突然に委員会を変わってくれと頼まれ、
全てを終えた栞が家路についたのは、
もう日も暮れかけた時間だった。
s “ 早く帰んなきゃ ... お父さん、待ってるだろうな ... 。
校庭を駆け抜けようとすると、
背後から人の気配を感じた。
s “ あ ... よ、吉澤先輩 …
そか、サッカー部も … いま終ったんだ。
r ‘ ... あぁ。
ボソリと話す蓮に、栞が驚いた。
わ、初めて話してもらっちゃった。
s “ 吉沢先輩はは部活ですか?大変ですね、たしかもうすぐ …
r ‘ … もうすぐ留学だしな
s “ はい … するんですよね?留学。
自分の動向を知っている栞に
ちょっと驚いた様子の蓮。
蓮にサッカー留学の話があがっているのは
生徒全員の知るところだったのだけれど。
自分のコトを他人の方が良く知っている事は
しょっちゅうなのでそのまま無言で通す。
s “ す … すごいですよね?たしか …
r ‘ おめー ... 。田代と委員かわったの?
会話を何とか持たせようと
必死な栞の言葉をさえぎって蓮が告げた。
今日の委員会、田代という女子生徒から
変わってくれと頼まれたのは事実だったが
この事を蓮が知っていた事に栞は驚いた。
s “ あ、はい。今日彼女大切な用事があるんだそうです
r ‘ ... 男だろ、どうせ。
s “ アハハ、彼氏なんですってね? … うらやましいなぁ。
r ‘ 知ってたのかよ … 断ればよかったのに。
何となく、二人並んで歩き出す。
よかった … この公園の前って、
確か痴漢が出るから気をつけろって
言われてたばかりなんだよね。
r ‘ 大丈夫なのか ... その ...
二人並んで歩いていても会話が無く、
何となく押し黙っているところに
蓮が急に口を開いた。
s “ え?
r ‘ いや。おめー ... 家事とかやってんだろ?帰りこんなに遅くなって ... いいのかな,と思って
s “ な、なんでそのこと?
誰にも言ったこと無かったのに ... 。
親友の梓にも。
r ‘ ... 手、見たらわかる。
栞はカバンを持って前で組んでいた手を
思わず背中に隠す。
細く白い小さな手は、
指先にアカギレが出きていて、
ほんの少し荒れている。
s “ あは ... 。気付いちゃいました ... ?恥ずかしいなぁ。
r ‘ ... なんで恥ずかしいんだよ。
s “ だってこんな荒れちゃって ... 。前の学校では主婦みたいって …
r ‘ 恥ずかしくなんてしなくていいのに
s “ ... え ... ?
r ‘ だってそれは頑張っている証拠だろ?恥ずかしくともなんともないだろ
栞の言葉を聞いていられないというように、
蓮が思わず言った。
しかし、あまりにも驚いたような表情で
栞見つめられ
r ‘ あ!いやその、つ、爪とか伸ばしてるヤツって嫌いでよ、だから …
s “ あ、ありがとうございます。そういう風に言われたの初めて … 。
r ‘ ... べ、べつに ...
栞の家の明かりが見えてきた。
俺こっちだから …
そういう連はと栞から離れていく。
s “ ただいまぁ、お父さんごめん!すぐ夕飯にするからね!
“ おぅ、早くしてくれー .. 。
買い物に行く暇が無かったから、
今日はありあわせのもので ...
冷蔵庫を開けて、
自分の傷ついた手の甲を見つめる。
同級生の子達と違う、荒れた両手。
だけど ... がんばってるもんね?
そう思って、
すべすべの頬に自分の掌を当てた。
吉沢先輩 … 。
冷たい人だと思ってた。
いつも話もしてくれないし、だけど。
見ていてくれてたんだ … 私の事。
この日から
栞の心には、連の名は、深く深く、刻まれた。
next. __________
✒︎ chloé
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。