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第1話

「絶望は何度でも」 お試し版
67
2021/10/17 03:18
第1話「目が覚めたら知らない部屋にいた #1」
キヨ
今日はこのゲームをやってくぞー





今日も今日とて実況を録っている。今日は友人の1人である、レトさんがおすすめしてくれたデスゲーム系のゲームを実況する。それが録れたら編集してYouTubeにあげて。すると今日のやるべきことは終わりだ。そのあとはテレビでも見るか。確か録画して溜まった番組があったはずだ。





キヨ
いや、キャラ全員濃いな!!!





結構な量があったから、これはシリーズにすっかなぁ、とか思いながらゲームにツッコミを入れていく。さすがデスゲーム好きのあの人が紹介してくれただけある。ゲームはプレイヤーが引き込まれる内容で、とても面白い。ハマる、と言った方が的確か。



それが起こったのは録画を開始して30分を超えたくらいときだった。ゲームを楽しみながら実況していたのにいきなりゲーム画面が真っ暗になったのだ。





キヨ
あ?落ちたか?








しかし、ゲームが落ちた時は画面が真っ暗になることなどないはずだ。普通ならスタート画面とか何らかの画面は映っているのに。画面は自分の顔を反射するだけである。再起動させようと電源ボタンを押すが、何も反応を示すことはない。








キヨ
壊れたか。ったく、なんつータイミングだよ。今日あげなきゃならねぇ動画なのに。仕方ねぇな、他のゲームにすっか






そう独りごちると録画を止め、椅子から立ち上がった。





キヨ
っ!!







突然目の前が真っ暗になり、平衡感覚を失う。どっちが前でどっちが後ろか。文字通り右も左も分からない。



やべぇ、これ立ってられねぇかも。貧血か?いや、そんなはずは……




あれこれと思考を頭の中で巡らせているうちに、俺はすっと意識を手放した。























━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
???
……、……!…よ、キヨ、キヨ!!!




俺の名前を呼ぶ声に、俺の意識は再び浮上する。






キヨ
んぁ゛……?んん゛っ…あ?






実況を録っているときに大声を出しすぎたのか、口から出た声は酷いものだった。







そうだ、実況を録っていて、それでゲームが落ちたから別のゲームをしようと立ち上がったのだ。そのあと……







ガバッと体を起こして辺りを見回す。俺の部屋……ではない。一面をコンクリートの壁と床で囲まれた冷たい印象を感じる部屋に俺はいた。ところどころに家具らしきものが置いてある。







キヨ
どこだ、ここ……
ヒラ
俺らもわかんないんだよねー
牛沢
そうそう。俺たちも気づいたらここにいてさ






聞こえてきた俺以外の2つの声に、初めてこの空間に1人でいるわけではないのだという事実を知る。そしてその声は聞き覚えのある声で。







キヨ
ラーヒー?うっしー?
ヒラ
やぁ、ラーヒーくんだよー
牛沢
よっ
キヨ
なんでお前らが?
牛沢
それが俺たちにもさっぱり。目が覚めたらこんな状態だったってわけ
どうやらこの友人2人もここがどこであるか、またどうやってここへ来たのかは分からないようである。
となると、一体この状況はなんだ?誰の仕業だ?ドッキリかなんかだろうか。そしたらカメラがどこかに仕掛けてあるのではないだろうか。
辺りをキョロキョロと見回している俺を見て、俺が何を考えてるのか分かったのか、ヒラはその考えを否定した。






ヒラ
ドッキリじゃないかって思ってる?俺も考えたよ。カメラが仕掛けてあるんじゃないかってね。部屋中を見回してみたけどさ、カメラなんてどこにもなかったよ
キヨ
じゃあこれは一体なんだってんだよ
ヒラ
分からない。だけど一つだけ言えるのは、俺らは何故か3人この部屋に連れてこられたってこと。これってさ、立派な誘拐だよね




誘拐―――



その言葉の恐ろしさを改めて感じる。こんな、成人男性である自分たちのような人間でも誘拐されることがあるのか。ここから出るためには、何をすればいいのだろうか。そもそも出られるのだろうか。







牛沢
キヨはここに来る前の記憶ってどこまで覚えてる?








この異様な状況にパニックになりかけたその時、ふとうっしーが口を開いた。焦りを感じで冷や汗をかいている俺とは正反対にうっしーは落ち着いている。なぜそんなにも落ち着いているのかと問いたい気持ちを抑えて、まずは質問に答えることにする。







キヨ
俺は、部屋で実況を録ってたんだよ。ちょうどレトさんにおすすめされたデスゲームがあってさ。でもそれが途中で落ちちまってよ。今日あげる予定の動画を録ってたからこれじゃまずいなって思って別のゲームを探しに立ち上がったら急に目の前が真っ暗になって…
牛沢
んー。なんか似た感じだな
キヨ
うっしーも?
牛沢
うん。俺はね、これから実況を録ろうかって時に目の前が真っ暗になった。立ちくらみかなって思ったけど、そう思ったのも一瞬だったね。そりゃそうだ、意識失ったんだもん






目の前が暗くなると言えば、と横で話を聞いていたヒラも声を上げる。





ヒラ
俺もそうだった。今日はフジの家で一緒に実況録る約束しててさ。家を出ようと思ったらなった。目が覚めて、状況が何となく把握できてから、すぐにフジに連絡しなきゃと思ってリュックがどこにあるか探したんだけど、なくて…
キヨ
荷物全部ないのか?
ヒラ
うん…。スマホも全部リュックの中に入れてたからさ、連絡つけられなくて…。フジ、心配してるかな…








俺は家にいる時に意識を失ったから、当然荷物など持っていないので確かめようはないが、ヒラがそう言うのなら荷物類はここに連れてこられた時に奪われたのだろう。



犯人の目的はなんだ?俺たちを閉じ込めて何をさせる気か。ダメだ、見当もつかない。






牛沢
なぁ、俺たちって外から連れてこられたんだよな?







うっしーが部屋の壁を見つめながらそう問う。それはそうだろう。俺たち3人は全く別の所にいた。俺の家やうっしーの家、さらにヒラが出ようとした玄関に隠し通路でもない限りここは俺たちになんの関係もない場所のはずだった。







キヨ
だろうな。それしかありえねぇ
牛沢
だよなぁ
キヨ
どうした?
牛沢
いやぁ…あのさ、ここ入り口ないなって思って





そううっしーに言われて初めて気がついた。確かに俺たちが外部から入ってきたのならどこかしらにドアや窓があるはずなのに。それらしきものが一切見当たらない。







ヒラ
ひとつ言ってもいい?







ヒラの真剣な声が聞こえて、思わず壁や天井に向いていた視線がヒラの顔に移る。その声の通り、顔もまた真剣で。いや、まぁこの状況でさすがの俺でもおちゃらけたりは出来ないのだが。この意味のわからない状況でヒラは何か必死に考え込んでいたのだ。









ヒラ
考えたくないしさ、信じたくもない話なんだけど。これもひとつの可能性なんじゃないかと思って話すね








ヒラの話は明らかに現実の世界では起こるはずのない、漫画の世界のような異常な話だった。しかし、この状況を説明するにはそれ以外考えられない。






ヒラ
ここ、俺たちの住んでるいわゆる現実世界とは別次元なんじゃないかな。普通に考えたらありえないんだけど、そもそもこの状況自体もありえないことばっかりだし。よくさ、同人誌とかで見ない?○○しないと出れない部屋とか、ゲームの世界に迷い込んだとか
キヨ
同人誌は見ねぇよ
牛沢
でも、今のところ絶対にありえないその説が一番しっくりくるな








確かにこんなシンプルな部屋はよく見るフリーゲームでありがちな作りではある。じゃあここは……






キヨ
ゲームの世界なのか?
ヒラ
何しないと出られない部屋なんだろ!!








ヒラと全く同じタイミングで喋ってしまった。








キヨ
…。ヒラ、なんつった?
ヒラ
え?いやぁ何すれば出られる部屋なのかなぁって。ほら、同人誌とかではさ、えっろい展開とか待ってるじゃん?
キヨ
……








呆れてしまって声も出なかった。そもそも同人誌は見ねぇって言ってるだろ!いや、それよりもなんで…






キヨ
なんでお前そんな嬉しそうなんだよ
ヒラ
嬉しくないよ〜だって見知った友達とあんなことやこんなことさせられるのなんて、やじゃん?
キヨ
やじゃん?じゃねぇよ










だが、そんなヒラの冗談のおかげで少し気持ちが落ち着いてきた気がする。ヒラの言うようにここが○○しないと出れない部屋とやらじゃないと信じるとしたらここは恐らくゲームの世界に近いものだろう。








キヨ
ゲームの世界か。ったく、めんどくせぇなぁ。でも、俺たちがどんだけゲームしてきてると思ってんだよ。まず最初にやることと言ったらあれしかねぇだろ。なぁうっしー?
牛沢
部屋の探索、だな
ヒラ
確かに!カメラないか見るだけは見たけどまだ物をどかしてまでは見てないからなぁ










部屋の物、と言っても部屋の中にあるのは引き出しのついたごく普通の棚や鍵のついた箱、机と椅子くらいしかないのだが、俺たちはそれぞれ部屋の探索を始めた。探し漏れがあってはいけないと慎重に、何度も、くまなく探した。


























キヨ
んで、見つかったのがこれか?
牛沢
なんだこれ…
ヒラ
注射器?みたいだね









時間をかけて探して、見つかったのは何やら液体の入った注射器一本のみだった。わざわざ注射器に入っているあたり、液体はろくなものではないことは分かる。ゲームは見つけたアイテムを工夫して使って部屋を脱出しなければならない。この注射器を使わなければいけないのか?






ヒラ
この液体を全部体の中に入れたら部屋からの脱出の条件を満たすのかな
キヨ
やめとけ。絶対体に良くねぇって
牛沢
あれ?これキヨがいっつも使ってるやつじゃないの?
キヨ
使ってねぇから!!!









せっかく真面目にヒラと話していたのに、うっしーにおなじみとなったネタを言われて雰囲気がまた少し和む。そのおかげで今までよりも一層頭の回転が通常通りに戻ってきたように感じる。とにかくこの注射器を使って何かをしないといけないことまでは分かった。


















━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
牛沢
はぁ、分かんねぇなぁ…
キヨ
謎解きゲームだとしたらめちゃめちゃムズいぞ、これ









注射器の中に入ってるのは油で、どこかに差せば隠し扉が動くようになるのではないか、とか、どこかに鍵の鋳型があって、この液体を流し込んで鍵を作るのではないか、とかいろいろ話し合って試してみたが、どれも失敗に終わった。







これは、いわゆる「詰み」ってやつだ。もうどうすればゲームクリアになるか分からない。打つ手がこれ以上ない状態。







まずい、このままだと俺たちは永遠にここに閉じ込められたままになってしまう……










ヒラ
ここは一つ、俺に任せてくれない?
キヨ
ヒラ…?







あれこれと案を試している途中から黙り込んでいたヒラがようやく口を開いた。






一瞬ヒラが何をし始めるのか分からなくて、俺もうっしーも反応が少しだけ遅れてしまった。だが、ヒラにはその一瞬の間だけで十分だった。





ヒラ
っ…
牛沢
あっ!!!
キヨ
おい、ヒラ!やめ……!









俺たちが出遅れたその一瞬の間に、ヒラは自身の腕に注射器を刺し、液体を全て体内に注入してしまった。慌てて止めるも、時すでに遅し。







キヨ
ヒラ、お前何やってんだよ!中身がなんだか分かんねぇんだぞ!?
ヒラ
うん、そうだね。でもさ、もうこうしなきゃ出られないかもじゃん?
牛沢
そういう問題じゃなくて……
ヒラ
それにほら!俺、なんともないよ?








そう言ってクルクル回ったりその場で飛び跳ねたりしてみせるヒラ。確かにその様子を見れば何事もないのかもしれないが。一歩間違えれば死ぬ可能性だってあったその行為に速まった鼓動は簡単には元に戻らない。






ヒラ
中身、無害なものだったのかな?生理食塩水とか







とにかく、無事だったヒラに安堵して、はぁ、と長いため息が出る。心臓が止まる体験とはまさにあのことだ。




キヨ
ったく、ビビらせんじゃねぇよ……










えへへ、とあざとく笑って、その後に何か言おうとヒラが口を開いたその時だった。








???
いやぁ、さすがゲーム実況者!見てて面白いね!







どこからか声がした。まだ成長しきっていない男子学生のように少し高い男の声。








ヒラ
っ!?
キヨ
誰だ!!
牛沢
どっから聞こえてんの?これ…
???
上だよ、上。天井見てごらん?スピーカーがあるでしょ
言われるがままに上を向けば確かにスピーカーらしきものがあった。
キヨ
お前が犯人なのか?お前が俺たちをこの意味のわからねぇ部屋に……!
ゲームマスター
犯人かぁ。んー、でも犯人サイドかって言われればそうだね。僕はただのゲームマスターさ。僕は主様あるじさまの命令に従ってるだけ











ということはこれは組織的犯行という事か。今喋っているこいつの上にまだ黒幕がいる。








牛沢
主?
ゲームマスター
そ。主様。そんなことよりさぁ、君たちの質問に答えていく方式でも僕は全然構わないんだけど、君たちはそれでいいの?もうあんまり時間ないけど
ヒラ
時間制限あるの?これ
ゲームマスター
うん!あるよ!じゃあ簡単にルール説明してあげるよ。君たちは主様の命令によって、ここに連れてこられた。君たちにはこれからとあるゲームに参加してもらうんだ。







やはり、ここはゲームの世界だったのだ。俺たちの推理はあながち間違いではなかった、と思う傍ら、ゲームマスターが言う「時間制限」が気になってならない。






ゲームマスター
いまさっき、注射器を見つけたでしょ?実は使い方はヒラくんのやり方であってるんだ!まぁそれが注射器の一般的な使い方だしね!でも、もうちょっと話し合ってから注射器使った方が良かったんじゃないの?それでいいなら僕はいいけどさ
キヨ
どういうことだ








この後、ゲームマスターが発した言葉に俺は殴りかかりそうになった。声の主はここにいないというのに。








ゲームマスター
だって、注射器の中身って毒なんだもん
キヨ
っ!!







毒を体内に入れさせるなんてことは、正気のやつがすることではない。狂っている。こいつらは完全に頭が狂ってやがる!!!






ヒラ
ど、く……







注射器の中身の正体を知ったヒラはみるみるうちに青ざめていった。それもそうだろう。誰だって中身が毒だと分かっていたらそれを体内に入れようなんて考えもしないはずだ。わざわざ打たせてからそれを告げるなど、卑怯にも程がある。






牛沢
で、でも、なんともなかったよな?だってあの時そう言って……
ゲームマスター
そりゃそうだよ。多分今もまだ大丈夫でしょ?ヒラくん。その毒は遅効性なんだ。でもそれもあとちょっと。そろそろ毒が効いてくる頃だと思うよ
ヒラ
あ……あぁ……っうぅ……っ
キヨ
ヒラを見殺しにするつもりか!!なんでっ…なんでヒラが……!!






だから…、だから、やめておけと言ったのに。







ゲームマスター
僕たちだって簡単に人を殺したくないよ。君たちはゲームをしにここへ連れてこられたんだ。これもそのゲームの一環ってわけ!安心して、ヒラくんはまだ救えるよ
牛沢
どうすればいい!?俺たちは何をすれば…!







ヒラはショックで体をガタガタと震わせている。それを見るとまた余計に腹が立ってくる。人が苦しむ姿を見て楽しんでいるのか?俺たちは、ヒラは、そんな見せ物のためだけに苦しまなきゃいけないのか?






キヨ
早く言え!!!!!
ゲームマスター
簡単だよ。5分以内に解毒剤を見つければ君たちの勝ち。大丈夫、解毒剤はちゃんとしたやつだよ
牛沢
俺たちは注射器を探す時も、その使い道を見つける時も、この部屋をくまなく探したんだぞ?隠し部屋とか隠し棚とかがあるかもしれないって!解毒剤なんてどこにもなかったじゃねぇか!








この部屋に、見逃しはない。本当にそうだろうか?







キヨ
いや、あるぞ。まだ見てねぇとこ







確かに視界に入れたし、あることは知ってたけど、使うことが出来なくてそのまま放っておいたもの。







牛沢
え?
ヒラ
……?








うっしーは焦りが前面に現れた顔で、ヒラは恐怖で真っ青になった顔で俺を見る。






キヨ
鍵がついた、箱みたいなのがあっただろ
牛沢
!!確かに…。そうだ、開けられないから後回しにしようって言ってそれで……。それで…








だが、だからなんだ?まだ見ていないところがあることが分かったところで、鍵は手元にないのだ。その箱を開けられないのには変わりない。







ゲームマスター
そうそう!名推理だよ、有名ゲーム実況者たち!!
キヨ
これの何が名推理だ、くそっ…
牛沢
開けられないんじゃ、どうにも……








どうにもならない、うっしーはそう言いかけたがそれが最後まで声に出されることはなかった。













ヒラ
う゛っ……!?あああぁぁぁあぁぁっっっ!!!!あ゛っ……ぐ、うぅぅ……








ヒラの体内に注入された毒がついに効き始めたのだ。全身をゆっくり回った毒はヒラの体を蝕まんと牙を向ける。ヒラの、苦痛を外に逃がすかのような、悲鳴にも近いような声を聞いていると、一度は落ち着いた鼓動がまた速まり、冷や汗がどっと吹き出る。









キヨ
ヒラっっっ!!!!
牛沢
しっかりしろ!!気を、しっかり保てよ!!どうしよう、キヨ…!
キヨ
解毒剤を、探すしかねぇ…
ゲームマスター
うんうん、始まったみたいだねぇ。今から5分以内だよ!その時間を過ぎたらヒラくんは死んでしまうからね。あ、そうだ






そう言うとゲームマスターの声は一瞬止まった。







キヨ
…?
ゲームマスター
そこの箱、開けられないと困るでしょ?はい、鍵あげる









その声と同時に奥の方でカランと金属が床に落ちる音が聞こえた。鍵、探さなくても良かったのかよ。でも、これで奴らの言う“ゲーム”が少し進んだはずだ。確実に。












ヒラ
うぅぅぅぅぁぁぁぁああああああ゛あ゛あ゛っっ!!!!








その間にもヒラの絶叫は止まらない。痛みに耐えるように腕全体を使って全身を押さえている。痛いよな、苦しいよな。すぐ解毒剤見つけてやるから……。












ゲームマスター
じゃあ頑張ってね!主様をガッカリさせないようにね!主様は君たちのこと、ちゃんと見てるんだから









頭上でゲームマスターが何かを言っているが、それを聞いている場合ではなかった。落ちた鍵の近くにいたうっしーが箱を開けようと駆け寄る。









ヒラ
うぅっ…げ、どくざい……
キヨ
ヒラ!喋るな!無理すんじゃねぇ!!
ヒラ
違っ……あ゛ぅ……、そこに、は…ないんじゃ…っ
牛沢
え?
ヒラ
そ、んなっ……簡単、な…とこに……ぐっ…ぅぅ…
キヨ
そういうことか!!










ヒラの、苦しみを抑えながら発した言葉に、彼が言いたいことを理解する。自分の体が毒におかされている状況下でも、ヒラは頭の回転を止めていない。焦って、空回りして、目先の餌に食いつこうとしていた俺たちがむしろ恥ずかしい。






ゲームマスター曰く、これは「ゲーム」なのだ。俺たちは誰かの見せ物になっている。





わざわざヒラに毒を盛ったなら、すぐに解毒剤にありつくようにさせるだろうか。5分という制限時間を設けておきながら、すぐにクリアさせるようなことをするだろうか。どうせ頭のとち狂った奴らのことだ。解毒剤への誘導を限りなく長くして、制限時間ギリギリで解毒剤を見つけられるか否かの瀬戸際に俺たちを立たせ、俺たちのその様子を楽しむつもりだろう。









キヨ
そんな簡単なところに解毒剤なんかねぇ。そういうことだろ、ヒラ








俺の問いかけにゆっくり頷くヒラ。その顔は先程よりも青ざめて、玉のような汗が浮かんでいた。







キヨ
うっしー、とりあえずそれ開けろ!ヒラを救えるかどうかは俺たちの推理力にかかってる。奴らは時間ギリギリまで俺たちを解毒剤に誘導するはずだ。一つ謎を解いたら次の謎に繋がってて…きっとそれの繰り返しだ。やるしかねぇ!
牛沢
オーケー、そういうことね…












うっしーはいきなり人の命をその手に握らされた緊張で震える手をどうにか抑えながら箱の鍵を開けた。































━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヒラ
はぁっ……はぁっ……ぐぁぁぁぁっあ゛あ゛っ……!うぅ…







やはり予測通り、鍵のかかった箱に入っていたのは謎の書かれた紙だった。それを解いて部屋を探せばまた謎を見つける。それが解けたらまた次の謎。



















5分という制限時間の短さが、後ろで大きくなっていくヒラの苦しそうな呻き声が、俺たちの不安を大きく煽っていく。焦っても空回りするだけなのに。解いても解いても終わらない謎に、本当に解毒剤は用意されているのだろうかと思ってしまう。犯人はヒラを助ける気などないのではないか。ヒラが苦しみ、俺やうっしーが必死に謎を解く姿を見ているだけなのではないか。











キヨ
っ……
牛沢
キヨ?






急に手を止め、大量の汗を流す俺の異変に気づいたうっしーが声をかけてくれる。






キヨ
はぁ…はぁ…はぁ……っ








呼吸が上手く出来なくなる。十何年も一緒に実況をやってきた友人が、目の前で死ぬかもしれない。俺たちが何も出来ないまま、毒におかされて死んでしまうかもしれない。そう考えると、酸素を吸い込みたいのに体がそれを拒否してしまう。









牛沢
キヨ、落ち着け。焦ったら相手の思うつぼだぞ。俺の目を見ろ












言われるがままにうっしーの方を向く。眼鏡の奥にある双眸がしっかりと俺を映している。うっしーは何も言わず、ただ俺の背中をさすってくれた。






大丈夫、全部上手くいくから。






そう言ってくれているような気がして。











キヨ
っ……わりぃ、うっしー……俺…
牛沢
いいってことよ














1人じゃない。絶対に謎を解ききって解毒剤を手に入れ、ヒラを救う。それしか道がないのなら突き進むしかなさそうだ。うっしーが隣にいれば、ヒラの声が苦しそうでもまだ聞こえていれば、きっとまだ大丈夫。この状況は変えられる。ゲームをクリアすることが出来る。












ゲームマスター
制限時間は残り1分だよー!頑張ってねー

















残り60秒―――






















牛沢
これって、こういうことじゃ…!?
キヨ
そうか!なら答えはこれか!
牛沢
あった!次だ!











謎解きはまだ続く。次へ進むごとに難易度は難しくなっていく。




ここから出るために。ヒラを救うために。






がむしゃらで謎に食らいつく。





















残り40秒―――



















ヒラ
き、よ……っ、くるしっ……
キヨ
ヒラ!大丈夫だ、絶対に解毒剤を手に入れてやるからな!もうちょっとの辛抱だ
牛沢
キヨ、これ最後の謎だ!!!








ついに最後までたどり着いた。長かった5分の戦いの結果はこの謎にかかっている。ヒラの命も残り40秒しかない。

















だが、




















キヨ
なんっだこれ……
牛沢
っ……。むず……







紙に書かれた謎の記号の列。問題文は、




「下に書かれた通りにすれば解毒剤は手に入るよ!」




ふざけんな。解かせるつもりねぇだろ。見たこともないような記号に立ち尽くす。



















残り20秒―――














ぐるっと部屋を見回してみた。コンクリートで囲まれた部屋に引き出しのついた棚、無造作に置かれた机と椅子、鍵のかかっていた箱。



紙に穴が開くほど問題を読んでいるうっしー。



今も尚痛みに悶えているヒラ。



床に散らばった今までの謎が書かれた紙。










ふと、裏返った紙が目に入った。



紙の裏の右上には謎の記号が1つ。左下にはひらがなが1文字。




右上の記号は今うっしーが持っている紙に書かれているものの1つで。






キヨ
そうか!そういうことか!!!
牛沢
分かったのか!?
















残り10秒―――



















説明する暇などない。俺は今までの問題用紙を全て裏返し記号順に並べ替え、順番にひらがなを読んだ。








キヨ
げ、ど、く、ざ、い、と、さ、け、べ……
牛沢
解毒剤と叫べ?くそ、これだけ時間使わせといて最後はそんな単純なことかよっ…

















残り5秒―――















キヨ
っ解毒剤!!!!!!!!!!






その瞬間、鍵が落ちてきた時のように、床にものが落ちる音が後ろで聞こえた。落ちていたのは、液体の入ったビンだった。







牛沢
これが解毒剤か!
キヨ
ヒラっ!






素早くビンを掴むと蓋を外し、すぐさまヒラに飲ます。これが本当に解毒剤か、というような疑問は浮かばなかった。ただ、この液体に運命を、ヒラの命をかけるしかなかった。




コクン、とヒラの喉が動くのを見てビンを床に置く。





怖かった。間に合わなかったのではないか。もう二度とヒラの声が聞けないのではないか。笑顔が見られないのではないか。俺たちが見殺しにしてしまったのではないか。



長い、長い一瞬が流れた。







ヒラ
……






ゆっくりとだが、額に浮かんでいた汗は引き、ヒラは瞼を開けた。





キヨ
ヒラっ!!!
牛沢
良かった………
ヒラ
ありがと…2人とも







まだまだぐったりとしているが、さっきまでのような苦しそうな呻き声はもう聞こえない。解毒剤が効いたのだと分かり、胸を撫で下ろす。







キヨ
怖かった…。すげぇ怖かった。ヒラを失うんじゃねぇかって……
ヒラ
俺も、怖かったし痛かったけど…俺はキヨたちを信じてた。救ってくれてありがとう
キヨ
バカ。もう二度とあんな無茶な真似すんじゃねぇぞ
ヒラ
うん
牛沢
ふー……なんかすげぇ疲れたわ







肉体的な疲れよりも、精神的な疲れの方がでかい。俺たち3人は床に横になった。





これで、ゲームクリアだ。俺とヒラとうっしーという、普段は集まらないようなメンバー構成には謎も多かったが、とりあえずなんとかなったようだ。








ゲームマスター
すごいね!クリアしちゃった!さすがだよ。キヨくん、ヒラくん、牛沢くん、1回目のミニゲーム、クリアおめでとう!次も頑張ってね!
牛沢
は?次?
キヨ
1回目の…
ヒラ
ミニゲーム……?








ゲームマスターの声を合図に、横の壁が一面だけ、上にスライドして開いていった。



その先にあった光景とは―――










この出来事はまだ悲劇の序章にすぎなかったのだ。この時の俺には、これから起こることなど想像も出来なかった。あんな思いをする事になるなんて………








…to be continued.





✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄


pixivにあげたシリーズ、「絶対は何度でも」の第1話をお試し版としてあげてみました!



第2話以降、有名ゲーム実況者たちがどんどん謎のゲームに巻き込まれていく……。



守り、守られ。裏切り、裏切られ。




ゲームの内容はどんどん過激に、残酷になり、ついに犠牲者も。







「ちょっと面白いかもしれない…」って思った人!!続きはpixivのたまごぼーろのアカウントにあがる予定なので、気になったらぜひ読んでみてね!!

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