檜垣くんとの昔話をした。
唯一助けてくれた人だということ。
私が変わる第一歩の背中を押してくれたこと。
何だかんだ言って、一件落着らしい。
随批は気絶して床に倒れているので、もう襲っては来ないだろう。
突然、萩句は両腕を広げた。
これってまさか‥‥‥
萩句はいつからSになった‥‥?
遥の声に驚いて体勢を崩した私は、萩句の腕の中にすっぽり入ってしまった。
何が起きたのかと、私は遥の方を振り返った。
──────笑ってる。
絶対わざとだ。にししって笑ってるもん。絶対わざと。
‥‥‥後でげんこつの刑に処す。
萩句はそう言って、私を抱き締めながら頭を優しく撫でた。
‥‥‥心臓やばい。
声近いし。温かいし。やばいよ、これ。
おいおいちょっと待て‥‥‥
この状況をどうにかして!?!?助けて!!ねぇ!!!
萩句は私を放して、今までにないくらいの優しい顔で笑った。
‥‥‥少しきゅんとしたのは気のせいだろう。
─────その瞬間、後ろから声が聞こえた。
随批はふらりと立ち上がっていた。
様々な疑問が飛び交う中、萩句と秋句は青ざめていた。
萩句は必死に“最後の手段”を止めようとしている。
“最後の手段”って何だろう‥‥‥
神堕ち‥‥‥?
すると、随批の周りが黒く濁りだした。
萩句と秋句は、一気に攻撃をし始めた。
正直、二人が言っていることが理解できなかった。
「巴様」「神祓い師」「ケガレの杜」「神堕ち」
どれも聞いたことのない単語だ。
でも、今がとても大変なことになっていることは理解できる。
すると、芍薬くんはすっと消えた。
そして随批は‥‥‥目が赤く染まり、体がまがまがしい黒に包まれていた。
これが、“神堕ち”というのだろうか。
──────怖い。
今までにないくらいの恐怖を今、感じている気がする。
消滅‥‥‥!?
柊は件に縋るように問い詰めた。
すると、件は苦しそうな顔をして答える。
件はためらいながら口を開く。
『神が一人消滅することを条件とする』
件の声じゃない、でも知っている声が聞こえた。
‥‥‥‥萩句の声だ。
そして、萩句はゆっくりと息を吸うとはっきり言った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!