そうだよ‥‥秋句が消滅しても戻ってこれたんだから萩句も‥‥‥!
そん‥‥な‥‥‥
萩句は真っ直ぐな目をしていた。
何にも揺らがない、強い意志が萩句の中にある。
私は萩句に訴えた。
けれど、萩句は笑うだけだった。
悲しそうに笑った萩句は、変わり果てた随批に向き直った。
萩句は随批に手を伸ばし、触れる。
すると次の瞬間、随批の辺りが光った。
随批は苦痛の叫びを上げる。
それと同時に、随批と萩句の姿が薄くなった気がした。
それでも、萩句は笑うだけ。
それでも、萩句は笑うだけ。
それでも、萩句は笑うだけ。
出会ったばかりの檜垣くんに言われても、笑うだけ。
このままじゃ、萩句は‥‥‥!
‥‥‥一瞬、理解ができなかった。
いつも大人しい遥が、萩句に怒鳴ったのだ。
萩句も目を丸くしていた。
遥は息を切らしていた。それだけ、必死なのだ。
萩句は少し黙ってから、悲しそうに笑って口を開いた。
萩句はへにゃっと笑った。
‥‥‥萩句の気持は揺らがなかった。
もう萩句の体は後ろが見える程透けていて、消滅寸前なのだ。
萩句は消滅して、私は生きる。
それが残されたたった一つの道。
‥‥‥そんな、そんな、悲しい結末がどこにあるのだろうか。
私は萩句に駆け寄った。
──────萩句に触れたい。
今なら間に合う。まだ、萩句は生きている。
だから諦めない。萩句は‥‥‥死なせない。
萩句は私の目に溜まっていた涙を拭った。
─────そして、一言だけ私に告げる。
『 × × × 』
萩句は笑う。いつもの笑い方で。私の好きな笑い方で。
──────さよなら、と。
そして、萩句は消滅した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。