随批の怒りは頂点を達していた。
それもそうだ。裏切り者が出たのだから。
まぁ、自分が悪いんだけどね。
随批が檜垣くんに飛び付いてきた。
檜垣くんは私を巻き込まないように、後ろへ促す。
随批は檜垣くんの首を絞め始めた。
檜垣くんはそう言って随批の頭に触れた。
そして、次の瞬間‥‥‥
私は檜垣くんやお兄ちゃんに言われた通り、慌てて耳を塞いだ。
それにつられて、皆も耳を塞ぐ。
‥‥‥これは、檜垣くんがやったの?
随批と同じ技を‥‥‥
随批が倒れるのと同時に、爆音は治まった。
檜垣くんは、倒れた随批を見下ろした。
随批はゆらゆらと立ち上がる。
そして随批は、お兄ちゃんに飛びかかり首に噛み付いた。
すると、お兄ちゃんは脱力した。
随批はお兄ちゃんを喰らい始める。
お兄ちゃんの肩がどんどん随批に食べられてゆく。
私はそんな光景を、見ていることしかできなかった。
──────────怖い。
実の兄が大変な時に、足が、手が、体が震えて動かないのだ。
随批はボタボタと流れ落ちるお兄ちゃんの血すらも呑み込み、貪っていた。
遥はお兄ちゃんを助けようと手を伸ばした。
けど‥‥‥
────────グシャ
鈍い音と共に、左脚を失っていた。
遥はその場へ倒れ込んだ。
遥に駆け寄ろうと必死に手を伸ばす。
けれどやっぱり、鎖は切れない。
柊と件が遥に駆け寄ろうとする。
けれど、柊と件はすぐに倒れた。
‥‥‥遥と同じように、足を潰されたのだ。
随批に目が向けられるのと同時に、檜垣くんが私を自分の後ろに隠した。
殺す‥‥‥!?
檜垣くんの声は、いつもより低くて怖かった。
随批は、既に気絶しかけているお兄ちゃんの腕に歯を立てた。
その時、はっきりと見えた。
『ごめんな、愛』
お兄ちゃんはそう、力無く笑っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!