第40話

命の呪い
362
2019/05/26 11:10
思えば、私と夜曇が牢屋から逃げられたのは、随批がまた私たちを捕らえられることを確信していたからだと今更気付いた。


脱獄して、追っ手に追われ、逃げ切ったところで随批が待ち構えていた。

その後は私が人質にとられて即終わり。

夜曇は何も抵抗せず、攻撃をくらい続けた。
そして動かなくなった。

意識はあるが、瀕死状態だった。

それを随批はもて遊ぶかのように、私と夜曇に呪術をかけた。
それは、命の呪いだった。



だから絶対に、逆らえない。


逆らえば、夜曇が死んでしまう。
随批
お前らは私に逆らえない
随批
‥‥‥だか、それでは退屈だ
随批
だから‥‥‥
随批は手を上げた。
まさか‥‥!
お前ら耳を塞げ!!





───その瞬間、とても大きな甲高かんだかい騒音が私たちを襲った。




皆は慌てて件に従い、耳を塞いだ。

けれど私は、出来なかった。


右腕は随批に掴まれ、左腕は鎖で繋がれている。

無理だ。耳を塞げない。


このままで鼓膜が破れたら夜曇が‥‥‥!!
咲原 愛
咲原 愛
や、やめて!!!
私が叫ぶと、随批は笑った。
随批
爪を剥がれたいか?
背筋が凍る。

‥‥‥‥なんて怖い笑顔なのだろうか。

これほど怖いと思った笑顔は他にない。
咲原 愛
咲原 愛
っ‥‥‥!!
頭が痛い。張り裂けそうだ。

誰か、誰か、誰か‥‥‥この音を止め────
















─────────フワッ


突然、私の頭に何かが被さった。

これは‥‥‥薄い着物?
それに、この匂いは‥‥‥
非柿
非柿
これで少し耐えろ
檜垣くんの、優しい匂い‥‥‥。

やっぱり、非柿は檜垣くんだったんだ。
咲原 愛
咲原 愛
檜垣くん‥‥‥!
すると檜垣くんは、気付くの遅い、と笑った。

そして次の瞬間、檜垣くんは随批の腕を斬った。

随批
っ‥‥‥!?
随批は私の手を放した。

檜垣くんはその隙に、随批から遠ざけるようにして私を抱き寄せる。


すると、騒音は消えた。
木野 遥
木野 遥
っ‥‥と、止まった?
司泉
おい、あれ‥‥‥
お兄ちゃんが私たちを指差した。

皆はその指を目線で辿った。
誰‥‥?
敵‥‥‥ではなさそうだが
非柿
非柿
随批の神使
敵だった
だな
いや、こんな時に間抜けな会話されても‥‥‥
‥‥‥でも、本心は違うんだろ?愛を助けたってことは
件が笑うと、檜垣くんも笑った。
非柿
非柿
まあな。こいつの神使やってるのだって無理矢理やらされてるだけだし
無理矢理‥‥‥?
随批
お前‥‥この私に逆らうつもりか?
非柿
非柿
逆らえないとは言われたが、逆らうなとは言われてないんでね
随批
小癪こしゃく真似まねを‥‥‥
随批は顔を歪める。
随批
お前が私に逆らえば居場所を失う
随批
それでもお前は親戚の元へ帰るのか?そしてまた、殺すのか?
親戚を殺す‥‥‥?
それは、檜垣くんが「死神」と呼ばれる原因の‥‥
非柿
非柿
‥‥‥殺してるのはお前だろ
‥‥‥は?
非柿
非柿
何人殺した?
非柿
非柿
俺の両親に姉弟、じいちゃんにばあちゃん、叔母さんと叔父さん、従兄弟いとこにその恋人‥‥‥
非柿
非柿
まだいるんだよ!お前に殺された罪の無い奴らは!!
檜垣くんの両親?姉弟?それに加えて他にも‥‥‥?

檜垣くんが「死神」と呼ばれたのは全部、こいつのせいなの‥‥?
随批
だから何だ
随批
今ここでお前が私に逆らえば、親戚の元へ帰れば、またお前のせいで人が死ぬ
随批は不適の笑みを浮かべた。

けれど檜垣くんは、屈するどころか自嘲した。
非柿
非柿
‥‥‥ああ、そうだな。お前に逆らえば居場所を失い、また親戚を殺すことになる
非柿
非柿
それに、今更戻ったってまた邪魔者扱いされて腫れ物を見るような目で見られるのがオチだ
非柿
非柿
けど‥‥‥
非柿
非柿
自分の恩人を見棄てる程馬鹿な人間じゃない。こんな所で後悔するなんて御免ごめんだね
恩人‥‥‥?誰が?
非柿
非柿
ふはっ、咲原さん、恩人って誰?って顔してる
咲原 愛
咲原 愛
え、ちょ、笑わないでよ!
非柿
非柿
恩人って、咲原さんだから
咲原 愛
咲原 愛
‥‥‥‥‥!?
私は檜垣くんに抱き寄せられていたので、檜垣くんを見上げる形になった。

‥‥‥だからよく分かった。
咲原 愛
咲原 愛
耳、赤いよ
非柿
非柿
うっせー‥‥‥
檜垣くんはかっこいいけど、可愛い。

そう、思った。

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