『ごめんな、愛』
お兄ちゃんはそう、力無く笑っていた。
手を伸ばしても届かない。
目の前にいるのに、助けられない。
大好きな人が、無力な自分の目の前で死ぬ。
─────これほどの屈辱が他にあるだろうか。
お兄ちゃんの腕は既に無くなっている。
随批がお兄ちゃんの腕を食べ終わると、醜い笑顔を浮かべた。
そして、お兄ちゃんの心臓部分に歯を立てる。
もう、終わってしまう。
何もかも全部。
私が、無力だから───────────
─────────────え?
そこには、いるはずのない萩句がいた。
萩句だけじゃない。秋句に椿、彼岸、芍薬、牡丹。
──────いなくなった皆がいる。
これは夢?
‥‥‥‥いや、夢じゃない。
だって、「きっと戻ってくる」って遥もお兄ちゃんも皆言ってたから。
何語‥‥‥‥?
呪いを解いた‥‥‥?
‥‥‥‥なんかもう滅茶苦茶だね。
ほら。敵が困惑してるよ。
‥‥‥って、
萩句は元々笑っていたけれど次の瞬間その目が変わった。
‥‥‥‥笑っているのに、物凄く殺気立っている。
周りの皆もそうだった。
勿論、殺気を向けられている随批は体勢を整えている。
その時の萩句はまるで、英雄だった。
皆を、私を救ってくれた世界一の英雄。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!