第38話

悲劇 3
331
2019/05/14 09:49
あなたは一体、誰なの?
どうしてあの時、私を助けたの?
お父さんとお母さんの頼み?
だったら、私の両親と何の関係があるの?
次々と疑問が口からこぼれる私に、件は悲しそうに笑いかけた。

それはまるで‥‥

「聞かないで」と言っているような──────
それより食事をしよう
話はそれから
件はにっこりと笑った。仮面を被った、悲しい笑顔。






──────────バサッ



突然、件は持っていた野菜を全て地面に落とした。

えっ!?ちょ、何して‥‥‥‥
そして、件は黒い風のように勢い良く走り出した。
件!?
何事かと、件を追いかける。

すると‥‥‥
また、か‥‥‥
件は、何かを抱えていた。
人間の、赤ちゃん‥‥?
ああ
漆黒の綺麗な髪に、柔らかくて暖かな頬‥‥
いつも死んでるか喰われてるかなんだが‥‥‥こいつは運が良い
く、喰われてる!?
妖怪は人間の子供をよく喰う
それに、森に潜む動物だって人間を喰うさ
だったら、どうして人の子がこんなところに‥‥
捨てられたんだ
‥‥‥え?
人間は愚かな生き物だな
自分の子をこの様な森に捨てるなんて、どうかしている
この様な森に捨てて拾う奴がいるとでも思っているのか
そう言ってる件は、ちゃっかり拾っちゃってるじゃん
う、五月蝿うるさい‥‥‥
何だかんだ言って、件はいつも優しい。
‥‥‥‥ん?
‥‥?どうしたの?
こいつ、天界の匂いがする
匂い?
ああ
件はそう言って、人の子をまじまじと見つめる。
もしかして‥‥‥!!
天界に、“人攫いの厄神やくがみ”という奴がいるんだ
その名の通り、人間を攫う。主に人の子だな
そして、その攫った人の子を妖怪に変化させて遊ぶ
そんな酷いことを‥‥‥
きっと今のこいつは、妖怪になる前の過程にいる
そんな‥‥‥
‥‥‥
ねぇ、件
その、人攫いの厄神の名前って‥‥‥
すると、件の肩が揺れた。
‥‥‥
件?
件は何をためらっているのだろうか。
‥‥言えない
え‥‥‥
絶対に‥‥‥言わない
どうして!?
っ‥‥それは‥‥‥
件は、私の質問に未だ答えていない。

















そして、人の子だった・ ・子には、“夜曇”という名前を付けて、件と私で育てた。


そしてまたいつからか、件はお父さんのような口調になっていった。

妖怪は、歳を取るごとに口調が変わっていくものなのだろうか。

でも、お父さんがいるみたいで安心する。




そういえば‥‥あの時の、答えは────────


木野 遥
木野 遥
この先にいるの‥‥?
ああ
司泉
何か‥‥‥まがまがしいな
あれ?私、寝てた?今までのは夢‥‥
それに、件にお姫様抱っこされて‥‥‥
何だよ、それ
‥‥‥え?
神なんだから、まがまがしいとかないだろ
まあでも、随批は人攫いの厄神と言われるからな‥‥
その、口調は‥‥‥
それに、随批が人攫いの厄神‥‥?
どういう、こと‥‥?
すると、皆が一斉に私を見つめた。
司泉
起きた!!
木野 遥
木野 遥
よ、良かったぁ‥‥
二人は、安堵の声を漏らした。

けれど、件は‥‥‥
聞いて、た‥‥?
まるでいたずらが見つかったような、そんな笑顔を見せた。
うん‥‥‥
そうか‥‥
今にも泣きそうな、でも、それでも、とても優しい笑顔だった。
















ここでやっと、理解した。




件は、私のお父さんの口調を真似したんだ。

私を安心させる為だけに。



あの時私の問いに答えなかったのは、私が持つ随批への憎しみを増幅させない為の優しさだった。



件は、何故こんなに優しいのだろうか。

何故、家族でもない私にこんな優しくしてくれたのだろうか。


不器用なのに、誰かに優しくしたり気を使ったりするのは凄く得意。


だからこそ‥‥‥
!?
私は、件の頭の後ろに手を回し、件の顔を自分に近付ける。
ど、どうし‥‥‥って、泣いて‥‥‥
面倒くさ‥‥‥
件はそう言いながらも、私の頭を撫でた。
ごめんなさい
あなたの優しさに気付かないで気を使わせて、未だに守ってくれていることさえ気付かずにいて。

そして、
ありがとう!
私は顔を上げて、件に笑いかけた。

最高の笑顔で、笑ってみせた。



もう、大丈夫だよ。件。

だからこれからは‥‥‥










『私にも、あなたを守らせて』





何だよ、それ
件は、いたずらっぽく笑った。

『ああ、宜しくな』と言っているように、そっと口角を上げて。


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