達也くんに怒鳴られて口をつぐんだ。
撮影の合間、ちょっと元カノの話をしただけなのにハルが突っかかってきて、達也くんがコンビニから帰ってくる頃には喧嘩になっていた。
一度言い合いになったらどこまでもヒートアップする。最初は仲裁しようとしていた達也くんもさすがにブチ切れた。
達也くんの言葉に、ぶちぶちうるさかったハルも黙った。
撮影が終わって、喧嘩が再開されるかと思ったが、ハルはずっと静かだった。急なトーンダウンに戸惑った。しかしまだ言い足りてはいないのか、ハルは俺の家まで半ばむりやりついてきた。
二人ソファに腰掛けるもいつもより距離がある。なんなんだとイライラしてたら、ハルが話しかけてきた。
ハルを見た。なぜかしょんぼりしていた。先程までの生意気でうざいこいつはどこへ行ったんだ。
ここで慰めればよかったんだろうが、喧嘩を引きずっていた俺はつい冷たい態度を取ってしまった。
付き合う前は…付き合い始めた当時も、喧嘩なんてほとんどなかった。そもそもこいつは怒らないタイプなのだ。なのに恋人になってしばらくして、ハルは俺に対してだけ怒りっぽくなった。気づいたら喧嘩が増えた。
そう言って、呆気に取られているハルから再び顔を背けた。
ほんとはわかっている。なんで喧嘩が増えたのか。でも俺はわざと言わなかった。もっと落ち込めばいいと思った。
ハルはもう何も言わなかった。言い過ぎたかもしれない、といまさら気になった。
ハルを向き直して驚いた。ハルは顔を覆って肩を震わせて、泣いているのが明らかだった。
どうやら「相性が悪い」と言われたのを相当気にしているらしかった。俺が冷たくしたのもあるだろうけど、にしたって泣くほどのことだろうか。
そうは思いつつもハルの涙には勝てず、頭を撫でた。
泣き止みそうにないから抱きしめた。イライラが急速に冷めていく。こんなにハルが傷つくなんて思わなかった。あんなこと言わなきゃよかった。
ハルの泣き声がいっそう大きくなった。いよいよ後悔でいっぱいになった。
しょうがないから、さっき黙っていた、喧嘩が増えた理由を教えてあげた。ハルがきょとんと俺を見上げた。
それに喧嘩したってちゃんと毎回仲直りしてるんだし。
ハルはやっと納得したようだ。俺に縋ってわんわん泣いてるけど、「大好き」とか「よかった」とか言ってるから、多分もう大丈夫だろう。
ハルの笑顔を見ながら考えた。
喧嘩が多いと、たしかに合ってないように見えるかもしれない。だけど俺らはこれでいいのだ。だって喧嘩したあとは、お互いをもっともっと大好きになっているから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!