私は人形だ。
人形であらねばならない。
「くく……それで良い」
目の前で艶やかな金の短髪を揺らすのはこの探偵事務所の主、綾辻先生…綾辻行人である。
私は毎日のように、甚振られては無表情でいないと打たれるという事をされていた。
習慣とも云える様になってしまったこの出来事を、どう表せばいいのかはよく分からない。
「また感情が出ているな…調教が足りなかったか」
冷徹な目で、彼は私を見据えた。
然しその奥では隠せなかった加虐的な喜色が混じっている。
そう、"調教"は彼の趣味でもある。
「却説、如何調理するか」
心底愉しそうに綾辻先生は口角を上げる。
私は再び無表情の仮面を被って、彼を見上げる。
「あなた君も楽しみだろう?」
答える術は無いけれど。
貴方がタノシイのなら、私はそれで良い。
私達の歪な関係は…今も尚、歪なまま続いている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。