「合格だな」
奥の部屋から出てきた国木田さんは開口一番こう言った。
「後は社長の許可だけですわ!……兄様を何の様にしてああ言う風に出来たのか、後程教えて下さる?」
艶やかな黒髪の少女が何だか未成年閲覧不可的な事をしようとしている気がした。
「社長?如何して出て来ないンですか?」
橙の少年が不思議そうに首を傾げる。
序に私も首を傾げる。
キィ、と小さな音を立てて開いた扉から、
……物凄く既視感のある人物が顔を覗かせた。
『……あ…えっと、その節はどうも…?』
「……う、うむ」
あの"野良猫の溜まり場"の時の、白髪の方だ。
……矢っ張り未だ気まずい……
挨拶してそのまま2人して固まっていると。
「えぇぇえぇえぇぇぇ!!!?社長と知り合い!?」
「こ、これは予想外だな……」
私の周りでそんな事を言う社員の方々。
『えっと……まぁ、顔見知り…?ですかね』
「……そうなる。名は知らなかったが…成程、あなたか」
噛み締めるようにあなた、あなた…と何度か口の中で転がしているらしい社長。
『えと、その…お名前を、伺ってもよろしいでしょうか?』
「福沢 諭吉」
力強い声で返されたこの人の名前を、私が忘れる事は無いだろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。