第2話

私の視線の角度は/国木田 独歩
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2019/07/17 10:46




        [0.1564≒sin9°]


彼女が残したメッセージはそれだけだった。

これでも俺は元数学教師、当然角度を表しているのは分かっているのだが……

「……何を伝えようとしたんだ……?」

彼女の気持ちはさっぱり分からないまま。

乱歩さんはこの置き手紙を見るなり眉間に皺を寄せ「早く気付いてあげてよ」と一言云って駄菓子を買いに出掛けてしまった。

少し癪だが太宰に助けを求める事にする。

はぁ……恐らく彼奴には仕事と引き換えにされるのだろうな……

「何だい国木田君。……嗚呼、それか」

俺の手元の紙を見た途端に状況把握したらしい。

相変わらず頭の回転が早い奴だ。

……それを仕事に活かして欲しかったが。

英字アルファベットに当て嵌めてご覧」

それだけ云った太宰は、何時も以上に掴み所の無い笑みを浮かべて去って行った。

……奴らしくも無い。

英字アルファベットに当て嵌める、か……

確かにやっていなかったな。

そして俺は気付く。

           [ I ]

この一文字に。


全てを悟った俺は堪らず探偵社を飛び出した。

後ろで太宰が珍しく手を振っていたのがやけに引っ掛かるが、今はそれどころではない。


「────っあなた!!」

『……!!!』

俺の数メートル先で、彼女は振り向いた。

表情は、夕陽の逆光で見えていなかった。

『……来たンだね、国木田』

「……元数学教師を舐めるな」

『……そうか……、それもそうだな』

何が可笑しいのか、あなたはクスクスと笑っている。

『何が可笑しい、って顔してるね』

時折、此奴はこうして俺の心を当ててくる。

『まぁ実の所、私にも何が可笑しいのか分から無いンだよ』

その声色は少しだけ残念そうで、少しだけ寂しそうで。

「あの置き手紙は冗談か」

『真逆』

即答、か。

『私は臆病者でね。……回りくどくてすまない』

彼奴は照れたように笑った、様に見えた。

『でもそれ以上に』

彼女は赤い空間に手を伸ばすが如く腕を広げる。

『大馬鹿者だ』

彼女の名を叫ぶが届かない。

彼女に手を伸ばすが届かない。

彼女に想いをぶつけるが届かない。


『じゃあね、国木田……否、独歩』


また、来世で逢えるなら。

君と二人で。



『私の視線の角度は』










─────何時も君に曲げられたよ








彼女は何時も哀しそうに笑う









上司共 う え には云えないからね』












──────に惚れた、何て。













火薬の臭い。




空間の緋色。




彼女の最期。











倒れる彼女を見て不意に頭をよぎったのは。






       彼女の"血色"の眼

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