[0.1564≒sin9°]
彼女が残したメッセージはそれだけだった。
これでも俺は元数学教師、当然角度を表しているのは分かっているのだが……
「……何を伝えようとしたんだ……?」
彼女の気持ちはさっぱり分からないまま。
乱歩さんはこの置き手紙を見るなり眉間に皺を寄せ「早く気付いてあげてよ」と一言云って駄菓子を買いに出掛けてしまった。
少し癪だが太宰に助けを求める事にする。
はぁ……恐らく彼奴には仕事と引き換えにされるのだろうな……
「何だい国木田君。……嗚呼、それか」
俺の手元の紙を見た途端に状況把握したらしい。
相変わらず頭の回転が早い奴だ。
……それを仕事に活かして欲しかったが。
「英字に当て嵌めてご覧」
それだけ云った太宰は、何時も以上に掴み所の無い笑みを浮かべて去って行った。
……奴らしくも無い。
英字に当て嵌める、か……
確かにやっていなかったな。
そして俺は気付く。
[ I ]
この一文字に。
全てを悟った俺は堪らず探偵社を飛び出した。
後ろで太宰が珍しく手を振っていたのがやけに引っ掛かるが、今はそれどころではない。
「────っあなた!!」
『……!!!』
俺の数米先で、彼女は振り向いた。
表情は、夕陽の逆光で見えていなかった。
『……来たンだね、国木田』
「……元数学教師を舐めるな」
『……そうか……、それもそうだな』
何が可笑しいのか、あなたはクスクスと笑っている。
『何が可笑しい、って顔してるね』
時折、此奴はこうして俺の心を当ててくる。
『まぁ実の所、私にも何が可笑しいのか分から無いンだよ』
その声色は少しだけ残念そうで、少しだけ寂しそうで。
「あの置き手紙は冗談か」
『真逆』
即答、か。
『私は臆病者でね。……回りくどくてすまない』
彼奴は照れたように笑った、様に見えた。
『でもそれ以上に』
彼女は赤い空間に手を伸ばすが如く腕を広げる。
『大馬鹿者だ』
彼女の名を叫ぶが届かない。
彼女に手を伸ばすが届かない。
彼女に想いをぶつけるが届かない。
『じゃあね、国木田……否、独歩』
また、来世で逢えるなら。
君と二人で。
『私の視線の角度は』
─────何時も君に曲げられたよ
彼女は何時も哀しそうに笑う
『上司共には云えないからね』
──────敵に惚れた、何て。
火薬の臭い。
空間の緋色。
彼女の最期。
倒れる彼女を見て不意に頭をよぎったのは。
彼女の"血色"の眼
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。