「ドサドサッ」
少年に影が被さり、透けた瞳は消えた。
私の左側からは束ねられた髪が下へこぼれた。
錐を握りしめた手の、細い手首を草むらへ押し付ける。
自分に覆いかぶさった私を彼は退けようと必死にもがいている。
でも私は年下の子に負けるような女じゃない。
ちょうど夕日が眩しかった。
今度は私の赤茶の髪が透けていく。
またまた根拠の無い言葉が口をつく。
でもこの核を壊して2人共戻れる気がしないのは確かだ。
私を退けようと暴れることを止め、錐を握りしめる手が段々と開いていく。私もゆっくり押さえる力を抜いた。
離された錐は地面を転がり、袖から出た白く華奢な腕は顔元へ運ばれる。
腕に目が塞がれる直前、光る涙を見た。
綺麗だった。
そのまま彼は泣いてしまった。
私は覆い被さるのを止め、隣に座った。
風に揺れる幼い少年の柔らかい髪と頭を撫でた。
震える声でそう言った。
やっぱ殺る気だったのか。
夢の中の夕日は一向に沈まない。空はただ雲が流れるだけ。
彼の事情は知らないけど、悲痛な叫びは十分心に届いた。
もう少しだけこうしていよう、そう思って私も草むらに寝っ転がった。両手を頭の下で組んで少年の方を見る。
横に寝転ぶあの子、頭を撫でていたあの子はいなかった。
急いで立ち上がり、辺りを見渡す。
私の声は橙色の海に沈んでいく。
息が続かなくなって声を止めた途端に強風が私を呑み込んだ。
それもかなりの暴風。でも夏の匂いは薄かった。
あまりの強さによろけた瞬間・・・
目を開けると目の前には夢の中の少年。
驚くほど強い鬼の気配だった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。