長い沈黙だった。
月の光が降り注ぎ彼の指先を、柔らかい髪を、顔の輪郭を朧気にしていく。
彼は手に持つ錐をゆっくり下げ、反対に顔を上げた。その顔はもう焦っていなかった。
私は迷いもせずに「教えて」そう言った。
彼は裂けた空間をまたいで、夕方へと足を踏み入れる。私もそっと草原に足を下ろした。包み込むように柔らかい。
辺りが夜から茜雲が空を漂う夕方へと変わった。
空からは光る金平糖が降り注ぎ、辺り一面金色に染め上げる。優しく吹く夏の風は濃く寂しい匂いをのせ、懐かしさを届ける。肺いっぱいに吸い込むと切なくて、もどかしかった。
私たちは終わりのない草原を夕日に呑まれないように進む。風が吹けば草が波打つ。髪が揺れる。顔に触れたところがくすぐったい。
振り返らずに一言返事した。
私は光で色の透けた彼の髪に手を伸ばす。茶色じゃない、透けた頭に。
と、怒って頭から私の手を払い除けた彼。
錐なんか振り回した時は驚いたけど、やっぱり年相応の男の子だ。
夢はこんなにも幻想的だったか。眩しくて美しい。
でも覚めたら始めから無かったもののように儚く崩れていくのだろう。
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何分この夢を彷徨っただろうか。
彼は今度は振り返ってそう言った。そのあと数秒間私を見つめ、そっと視線をずらした。少し落ちた瞼はまつ毛を瞳に被せ、細いまつ毛の先が光る。
私は彼の頬に手を添えた。滑らかな肌。
薄くて脆くて強風に煽られたら消えてしまいそう。
なんの根拠もなしに口から零れた言葉。でもこれが終わりの見えない夢の中にふたりぼっちの私たちの心を支えられたらそれでいい。
細い指の差す先には確かに何かがきらりと反射していた。2人して草をかき分け走っていく。
草はざわざわと音を立て、風が波のように向かってきて砕ける。
ぽつんと浮かぶ玉は金色のように輝いていた。
内側でねじれるように色が変化する。
太陽のようで月のよう。
光る麦畑のようで雷のようだった。
彼の目は眩しい玉から離れない。
返事がない。
すると、か細い声が喉から出てきた。震えているように思ったのは気の所為だろうか。
そしてゆっくり錐を取り出し、核を狙った。
風は相変わらず吹き続け、橙色の海を作る。
傾く太陽が眩しい。私たちは日に当たって透けて消えそうだった。
* * *
鬼滅の刃「遊郭編」のアニメが決定しましたね!!
やった~~
予告の映像が綺麗でびっくりしました✨
そして宇髄さんの顔が綺麗!美しい!!
「遊郭編」の放送を楽しみに待ちながらこちらもコツコツ書いていきたいなぁと思います!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。