第35話

一生のお願い
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2021/02/13 14:00
私はすくっと立ち上がり、涙を拭った。
そして振り返り、最上級の笑顔でこう言った。
あなた
私の一生のお願い、
あなた
私を忘れないで。
芭琉さん
・・・・・・あなた?
芭琉さんを目に焼き付け、その場を離れた。
そして最後にみんなのいる部屋を覗き、
あなた
またね
静かにそう零して玄関に下りた。
目を合わせてしまったら辛くなるだけだから気づかれないうちに消えることにした。

玄関を勢いよく開ける。
芭琉さん
あなたっ!!!
あなた
っ!?
動かしかけた足が止まる。
芭琉さん
どうしたの!?
芭琉さん
何処へ行くの!?
あなた
・・・・・・
顔は徐々に下を向き、下唇を噛んでいた。
芭琉さん
ねぇ、あなた・・・?
こちらへ歩いて来る音がした。
腕を掴まれる前に、行かなきゃっ
私は、昔から芭琉さんには敵わないんだからさ。
ここで引き止められたら、私は・・・・・・。
玄関の戸に触れたままの両手に力を込め、勢いよく家を飛び出した。

ごめんなさい、でも、それは出来ないの。
行かなきゃならないの。

でも、私は、

いつだって

あなた
芭琉さんが宇宙で1番好きだから!!
あなた
忘れないで!
あなた
一生のお願いも忘れないで!!
ボロボロと涙を流しながら夜の住宅街を走る。
全速力で走る。

後ろを見ちゃだめだ。声を聞いちゃだめだ。

ここから出るために走るんだ。
この夢から覚めるために。
夏の夜は相変わらず蒸し暑く、風は遅い。
でも耳の横ではうるさく音を立てている。

斜め上には綺麗すぎる三日月が浮かんでいた。
しかし、それも次第に涙でぼやけていく。
突如、走りやすくなった。
浴衣から隊服へ変わっていたらしい。

日輪刀もしっかりある。髪も結ってある。
段々夢から覚めてるんだ
でも、
何処へ?何処へ行けばいい?


無我夢中に走っていた時、異様な光景を目が捉えた。
そこだけ空間が裂けていた。その前には男の子が1人立っていて手には錐を持っている。
男の子
ちっ・・・!
その奥には夕焼けの草原が広がっていた。
あなた
き、君っ!!
あの子なら、何か知っているのかもしれない
あの先へ行けば、ここから出られるかもしれない
男の子に手を伸ばす。
あなた
!!
すると彼は錐を振るった。
男の子
・・・クソッ
錐を握る手にはかなり力が入っている。
もしやこの子、攻撃したのか?
男の子
あと少しなのにっ バレた!!!
ひどく焦っている。
あなた
ど、どうしたの、君も閉じ込められたの?
男の子
ちがう!!
彼は私を睨みつけ、錐を向けた。
あなた
ちょっ!危ないでしょ!
私は君の敵じゃないから!
そう言っても顔色ひとつ変えない。どうしようか
あなた
じゃあ、君ここから出る方法知ってる?
男の子
・・・・・・

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