(Sakuma)
体育祭は順調に進んでいって、今俺らの前では徒競走が行われている。
入場門に行く前にちらりと得点板を見れば、現在B組は2位だった。これ、リレーで一番取ったら逆転優勝できるやつだ。
なんか、燃えてきたぞー!笑
俺は1番最初に走るから、スタート地点につくなり、自分の立ち位置へ移動する。
その間、翔太やラウ、めめとアイコンタクトをとって、心を落ち着かせるように深呼吸した。
ドキドキ、と心臓の音が大きくなる。
パーンッ
ピストルの音がした瞬間、俺は周りの音を遮断して、前を向いて走る事だけに集中した。
1つ目のコーンを通過したくらいの時だった。
ふと、阿部ちゃんの声が耳に入ってくる。
自分でも、僅かに口角が上がるのが分かった。
目の前にいる翔太の姿がだんだん鮮明になってきたとき、急にガクッと足の力が抜けた。
やばい、このままじゃ転ぶ。
翔太の方へ倒れ込む様にしてバトンを渡した。
心配そうにちらりと俺の方を見た彼にそう叫んだあと、俺の体は地面に叩きつけられた。
岩本先生が心配してそう言ってくれるけど、今はそれどころじゃない。すぐに立ち上がって、邪魔にならないところへ捌ける。
ぱっと顔を上げればちょうど翔太がラウールにバトンを渡しているところで、応援にも熱が入る。
ラウは1位を保ったままめめにバトンを渡す。
ラウからバトンを受け取っためめは、まるで風のように美しく走って、ゴールテープをきった。
1位を取れた安堵からか、急に足が痛みだす。
…ねぇ、なんで今なの。
これ、あながち嘘じゃないからね。
立てないは言い過ぎか、でも立ったら痛いもん。
そうこうしてたら退場する時間になって、
片足を引きずるようにして、退場した。
退場門をくぐり抜けた瞬間、舘様先生と阿部ちゃんが走ってくる。
なぜか舘様先生に頭を撫でられる。
冗談半分でそう言ったら、
と、背中を向けられる。
体を支えられながら阿部の背中へ体を預ければ、じわじわと阿部ちゃんの体温が伝わってきた。
保健室について、処置用の椅子に座らされる。
信じられない!めっちゃ痛い!!
動かないとか無理!!!
足をばたつかせれば半分強制的に足を押されられて、もう逃げ出せない。消毒って、こんなに痛かったっけ…?
その後も痛い痛いと騒ぎ続けて、処置が終わった頃には汗だくだった。笑
ふとグラウンドの方を見れば3年生の学級対抗リレーが始まっている。
阿部ちゃんと並んで歩いてたら、
照れ隠しなのか、自分の足元を見ながらそう言ってくれた阿部ちゃん。
やっぱ好きだなぁ、そういうとこ。
ふふっ、と口に手を添えて笑う阿部ちゃんは薔薇よりも、宝石よりも魅力的だ。
この笑顔に勝るものなんて、何もないと思う。
グラウンドにつけばちょうど閉会式が始まる前で、一旦阿部ちゃんと別れて自分のクラスの列に並ぶ。
トロフィー授与の時、保体委員だから俺が授与されに行くんだけど、皆で力を合わせて優勝できたからなのかトロフィーがすごく重く感じた。
閉会式が終わり、舘様先生にトロフィーを渡せば、すごく嬉しそうな顔をしてて、頑張って良かったなぁって。
なんかしみじみしちゃった。笑
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。