玄関で待っていたのは侑くんだった。
こんな時間まで待っててくれたのだろうか。
そう思うと断りきれず…
私と侑くんは一緒に帰ることになった。
少しだけ気まずい時間が流れる。
私のこと友達としてしか見れないと言った侑くん。
それがずっと頭に引っかかっていた。
それでも私と帰ると言うんだ。
何か話でもあるのだろうか。
それを言うためだけに私を待っててくれたのだろうか。
侑くんは私の父が個展を開くことを知らない。
というよりは、まだ侑くんに伝えていないのだ。
(なんなん?思わせぶりなん?
ええとこ見せたいって、それ
好きな子に言うことやで…)
キラッと光る笑顔が眩しかった。
多分私はこの笑顔が、好きなんだと思う。
侑くん、ほんま眩しいなあ…
そう口に出ていた。
口に出すつもりのなかった私の心の声。
ハッとした時、彼は驚いた顔で私を見ていた。
誤魔化さないと、と思った時
彼はごめんと謝った。
分かってるねん、そんなこと
彼はキョトンとしていた。
少しでも誤魔化せただろうか。
侑くんが初恋なのに嘘をついてしまった。
泣きそうになった。
直接言われると結構辛いな…
私の目からは涙が溢れていたのだ。
彼は私の目を見て言った
もしこれで、私が頷いたり「好き」と言えば
多分、侑くんとの関係も終わる。
侑くんは、私を"ただの友達"としか思ってないから。
侑くんとの関係が終わるより
友達でもいいから、
まだ侑くんと話したい。
一緒に帰りたい。
傍に居るのが私じゃなくてもいい。
ただ、彼との関係を壊したくない。
私の嘘は、彼にわかるのだろうか。
頑張って誤魔化したつもりだけど、
彼はそれに気づいてくれるのかな。
いやきっと、「そうやんな!」と言って
笑うんだろう、彼は。
今はそれでいい。
この関係が終わるより、マシだ。
____________________
私はその日から、
彼への気持ちを心にしまって
過ごすことにした。
今日はインターハイ予選準決勝。
稲荷崎は準決まで勝ち進み、
今日は全校応援のため、バスで会場まで移動する。
昨日、県4強が決まり
準決勝は前年度県3位の高校と対戦する。
試合を見に行くのはこれが初めてじゃないのに
何故か緊張してきた。
今日優勝すれば、インターハイ…
稲荷崎はとても強い、けど油断は禁物だ。
________________________
会場に着いてから
私たちは応援席まで移動した。
後輩女子の黄色い歓声が上がる。
侑くんと同じくらい人気なのが治くん。
まあ、双子なのでファンが同じくらい居るのだ。
公式練習を見ていると
双子がこちら側に手を振っている。
その度に後ろから黄色い歓声が上がる。
双子人気の凄さを改めて感じた。
私に声を掛けてくれたのは
美術部顧問の 國久 絵梨花(くにひさ えりか)先生だった。
頑張って応援しましょうね!と言って
先生は自分の担任のクラスのところへ行った。
(話ってなんやろ…)
_______________________
先生の言っていた話が、どんな話なのか気になるけど
今は応援に集中しなければならない。
(あかん、気になってまう…)
_______________________
結局ずっと気になったまま準決勝の応援を終えた。
試合は 2-1 で勝利。決勝進出だ。
2人で話していると、先生がやってきた。
私は先生の後ろをついていく。
この後の先生の話が私の人生を変えることになるとは、この時は思ってなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。