第1話
二度目の告白
アスファルトに熱が帯び、蝉時雨が鳴く八月の初旬。高校二年の夏。
体中に汗を掻き、ストライプのティーシャツに染み込む。
公園のベンチに座っていた。ペットボトルのお茶を二本ベンチに置いた。
飯島夏樹は待ち合わせをしていた。まだ来ないかと周囲を見渡すと、近所の子連れだろうか、親子が二人して砂場で遊んでいた。
喉が渇きお茶を飲んでしまおうかと思った時に、彼女の姿が見えた。黒髪のロングを手で押さえ、やがてこちらに気付き、ニコリと微笑みながら手を振ってきた。
思わず、僕の頬が緩むのがわかった。
今日は一日、松島伊織とデートをする。付き合い初めて一年が経つ。デートの内容はいつもと変わらず、行き付けの喫茶店でチェスをしてから、ショッピングでブラブラと楽しみ、夕食を済ませた後、夜には天体観測をするつもりだ。
付き合い出してからから程なく、伊織は僕にチェスを教えてくれた。日本では将棋が馴染み深い。チェスは将棋とは違い持ち駒がない。その取っ付き易さから始めた。キングを取られるとチェックメイトとなり対局が終了する。
デートには必ずチェスをする。しかし、今まで一度も伊織にチェスで勝てた試しがない。
その名前を聞いたことがなかった。そもそも、僕は書籍やインターネットで調べる程、本格的にチェスをしていたわけではない。あくまで伊織とデートの中の一つとして楽しむくらいだった。
唐突な言葉に息を飲んだ。しかし、伊織の面持ちは至って真剣で、僕を見据えた。
初めて付き合った女性。伊織から告白されたことを思い出した。彼女の振る舞いは穏やかで、あまりクラスの人とは話をしない。馴染めていないわけではなく、彼女から進んで話の輪に入ろうとはしないようにみえた。
告白のときは伊織が顔を真っ赤になっていたことを覚えている。僕も鼓動が速くなった。風船がパンと割れたような驚きだった。これで、伊織からの告白は二度目になる。
蝉時雨が一層大きく鳴いてるような気がした。今年の夏は嵐のように、僕にとって急転換を迎えるのか、それとも夕立として穏やかに終わるのか。
判然としない長い夏休みになることは間違いなかった。