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第1話

二度目の告白
アスファルトに熱が帯び、蝉時雨が鳴く八月の初旬。高校二年の夏。
体中に汗を掻き、ストライプのティーシャツに染み込む。
公園のベンチに座っていた。ペットボトルのお茶を二本ベンチに置いた。
飯島夏樹いいじまなつきは待ち合わせをしていた。まだ来ないかと周囲を見渡すと、近所の子連れだろうか、親子が二人して砂場で遊んでいた。
喉が渇きお茶を飲んでしまおうかと思った時に、彼女の姿が見えた。黒髪のロングを手で押さえ、やがてこちらに気付き、ニコリと微笑みながら手を振ってきた。
思わず、僕の頬が緩むのがわかった。
今日は一日、松島伊織まつしまいおりとデートをする。付き合い初めて一年が経つ。デートの内容はいつもと変わらず、行き付けの喫茶店でチェスをしてから、ショッピングでブラブラと楽しみ、夕食を済ませた後、夜には天体観測をするつもりだ。
松島伊織
松島伊織
夏樹君お待たせ
飯島夏樹
飯島夏樹
大丈夫、今来たところだから
松島伊織
松島伊織
またそうやって、嘘をつく。駄目だよ、本当は随分早くに待ってくれてたんでしょう
飯島夏樹
飯島夏樹
チェスのことを考えていたんだ。
今日こそ伊織さんに勝ちたいからね
松島伊織
松島伊織
この夏休みで負けるかもしれないわね
飯島夏樹
飯島夏樹
そんなことを言って、伊織さんはプロ顔負けの強さじゃないか
付き合い出してからから程なく、伊織は僕にチェスを教えてくれた。日本では将棋が馴染み深い。チェスは将棋とは違い持ち駒がない。その取っ付き易さから始めた。キングを取られるとチェックメイトとなり対局が終了する。
デートには必ずチェスをする。しかし、今まで一度も伊織にチェスで勝てた試しがない。
松島伊織
松島伊織
ねえ、夏樹君に話さなければいけないことがあるの
飯島夏樹
飯島夏樹
僕に話してないこと? 何だろう?
松島伊織
松島伊織
川上咲かわかみさきという人は知ってるかな? 
随分、昔のチェスプレイヤーなの


その名前を聞いたことがなかった。そもそも、僕は書籍やインターネットで調べる程、本格的にチェスをしていたわけではない。あくまで伊織とデートの中の一つとして楽しむくらいだった。
飯島夏樹
飯島夏樹
ごめん、知らないよ。
その人がどうかしたの?
松島伊織
松島伊織
私はね、その川上咲なの。
夏樹君に会うために、過去から来たの
飯島夏樹
飯島夏樹
伊織さんも嘘をついたね。駄目だよ


唐突な言葉に息を飲んだ。しかし、伊織の面持ちは至って真剣で、僕を見据えた。
飯島夏樹
飯島夏樹
色々聞きたいことがあるけど、
どうして、僕に会いにきたの?
松島伊織
松島伊織
二百年前からあなたのことが好きでした
初めて付き合った女性。伊織から告白されたことを思い出した。彼女の振る舞いは穏やかで、あまりクラスの人とは話をしない。馴染めていないわけではなく、彼女から進んで話の輪に入ろうとはしないようにみえた。
告白のときは伊織が顔を真っ赤になっていたことを覚えている。僕も鼓動が速くなった。風船がパンと割れたような驚きだった。これで、伊織からの告白は二度目になる。
飯島夏樹
飯島夏樹
二百年も前の人なら、未来の僕が生まれるのはわからないんじゃないの?
松島伊織
松島伊織
あなたの家族は代々天文学者でしょう?
その血は二百年前と変わらないのよ。
ある人から言われてね、あなたに会いに来たの。
あなたを天文学者にするために
飯島夏樹
飯島夏樹
でも、僕は天文学者を目指していない
松島伊織
松島伊織
わかってるわ。
それでもあなたのことが好きなの
蝉時雨が一層大きく鳴いてるような気がした。今年の夏は嵐のように、僕にとって急転換を迎えるのか、それとも夕立として穏やかに終わるのか。
判然としない長い夏休みになることは間違いなかった。