第3話

よだかの星 3
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2020/05/28 08:56
 霧がはれて、お日さまが丁度東からのぼりました。夜だかはぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、矢のように、そっちへ飛んで行きました。

よだか
お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。けて死んでもかまいません。私のようなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。
 行っても行っても、お日さまは近くなりませんでした。かえってだんだん小さく遠くなりながらお日さまが云いました。
お日さま
お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度そらを飛んで、星にそうたのんでごらん。お前はひるの鳥ではないのだからな。
 夜だかはおじぎを一つしたと思いましたが、急にぐらぐらしてとうとう野原の草の上に落ちてしまいました。そしてまるでゆめを見ているようでした。からだがずうっと赤や黄の星のあいだをのぼって行ったり、どこまでも風に飛ばされたり、又鷹が来てからだをつかんだりしたようでした。

 つめたいものがにわかに顔に落ちました。よだかはをひらきました。一本の若いすすきの葉からつゆがしたたったのでした。もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。よだかはそらへ飛びあがりました。今夜も山やけの火はまっかです。よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中をとびめぐりました。それからもう一ぺん飛びめぐりました。そして思い切って西のそらのあの美しいオリオンの星の方に、まっすぐに飛びながらさけびました。
よだか
お星さん。西の青じろいお星さん。どうか私をあなたのところへ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません。
 オリオンは勇ましい歌をつづけながらよだかなどはてんで相手にしませんでした。よだかは泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、もう一ぺんとびめぐりました。それから、南の大犬座の方へまっすぐに飛びながら叫びました。
よだか
お星さん。南の青いお星さん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。やけて死んでもかまいません。
 大犬は青やむらさきや黄やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。
大犬座
馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが鳥じゃないか。おまえのはねでここまで来るには、億年兆年億兆年だ。
してまた別の方を向きました。
 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。それから又思い切って北の大熊星おおぐまぼしの方へまっすぐに飛びながら叫びました。
よだか
北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。
 大熊星はしずかに云いました。
大熊星
余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。そう云うときは、氷山のいている海の中へ飛びむか、近くに海がなかったら、氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。
 よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、四へんそらをめぐりました。そしてもう一度、東から今のぼったあまがわの向う岸のわしの星に叫びました。
よだか
東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。
鷲は大風おおふうに云いました。
鷲の星
いいや、とてもとても、話にも何にもならん。星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。

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