第3話

【プロローグ-2】
4,110
2019/08/05 01:09
それが人にモノを頼む時の礼儀なの? スイートで王子様みたいな花の顔でこの態度にこの物言い。ものすごいギャップなんですが、松風一威くん。

フォネツのメンバー女子はこんなイチの一面を知っているのかな。

昔はこんなじゃなかったのに、いつからこうなったのか。どこでどうすり替わったのか。
松風一威
松風一威
肉だ肉! まず肉だ! これをサイコロステーキにして、ソースはそうだな。今からだと二種類イケるか?
桜木 蒼
桜木 蒼
甘くみないでよ、三種類はイケます
一緒に作る、だなんてまったくの方便で、フォネツの仲間がくるのに自分好みの料理をわたしに作らせたいだけなんだ。

それならそれで別にいい。料理(特に野菜)は大好きだ。
桜木 蒼
桜木 蒼
じゃあまずメニューね。野菜と魚介がいっぱい摂れるようにパエリアの下ごしらえをしちゃうよ。これは時間に合わせて火を入れる
松風一威
松風一威
おう、パエリアか。蒼のパエリアめっちゃ好物だわ
知ってるからパエリアにしたんだよ。
桜木 蒼
桜木 蒼
それから野菜を使った前菜及びサラダ
松風一威
松風一威
また野菜? 肉は? ステーキは?
桜木 蒼
桜木 蒼
肉は最後だよ。あったかいうちにお肉、食べたいでしょ?
松風一威
松風一威
そうか、なるほどな
桜木 蒼
桜木 蒼
はい。イチも手伝って!
イチの腕の中に持ちきれないほどのパプリカやじゃがいも、トマト、アスパラ、ブロッコリー、玉ねぎを押し込む。
松風一威
松風一威
お、おう
渡された野菜の量にビビりながら、落とさないよう慎重な足どりでキッチンに向かうその背中に笑みが漏れる。

……料理ができあがり、イチの仲間、フォネツのメンバーが庭に面したリビングに集まる頃には、わたしはこんな表情はできないんだろうな。
わたしとイチの通う綾川高校は、都立の中でも十指には入るくらいの、いわゆる進学校だ。それでもいるのだ、目立つやつらが。

入学式からこっち、九クラスある中で目立つやつらは徐々に徐々に群れ始め、クラスや部活の枠を超えて集団を形成する。

金髪や茶髪にピアス、洗練されたアクセサリー、制服の着こなしもとい着崩しがばっちり決まっていて、魅力と自信、両方を兼ねそなえた男女。

男子は女子に慣れていて、女子は男子に慣れている。まさしく美男美女の集まりで、廊下の中央をたわむれながら歩く足どりもスマートだ。

成績は決して悪くないけれど、生徒にも先生にも一目置かれている。それを逆手にとって楽しむような……アウトローとの境界をわざわざ踏むことで注目を集めたがる、そんなお祭り騒ぎのメンバー。

尖ったところか群れる様子か、はたまた派手な外見からか、誰かがスズメバチに喩え始め、彼らはチーム・フォネツと呼ばれている。

一般の生徒はちょっと怖そう、と遠巻きに彼らを眺める。でもそのきらびやかな群れに注がれる視線には、常に憧れの色が滲んでいる綾川高校のフォネツ、スズメバチ軍団。

物心ついた時には隣にいたわたしのかわいい弟分のイチは、今ではそんなフォネツの一員。いや、トップだった。

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