それが人にモノを頼む時の礼儀なの? スイートで王子様みたいな花の顔でこの態度にこの物言い。ものすごいギャップなんですが、松風一威くん。
フォネツのメンバー女子はこんなイチの一面を知っているのかな。
昔はこんなじゃなかったのに、いつからこうなったのか。どこでどうすり替わったのか。
一緒に作る、だなんてまったくの方便で、フォネツの仲間がくるのに自分好みの料理をわたしに作らせたいだけなんだ。
それならそれで別にいい。料理(特に野菜)は大好きだ。
知ってるからパエリアにしたんだよ。
イチの腕の中に持ちきれないほどのパプリカやじゃがいも、トマト、アスパラ、ブロッコリー、玉ねぎを押し込む。
渡された野菜の量にビビりながら、落とさないよう慎重な足どりでキッチンに向かうその背中に笑みが漏れる。
……料理ができあがり、イチの仲間、フォネツのメンバーが庭に面したリビングに集まる頃には、わたしはこんな表情はできないんだろうな。
わたしとイチの通う綾川高校は、都立の中でも十指には入るくらいの、いわゆる進学校だ。それでもいるのだ、目立つやつらが。
入学式からこっち、九クラスある中で目立つやつらは徐々に徐々に群れ始め、クラスや部活の枠を超えて集団を形成する。
金髪や茶髪にピアス、洗練されたアクセサリー、制服の着こなしもとい着崩しがばっちり決まっていて、魅力と自信、両方を兼ねそなえた男女。
男子は女子に慣れていて、女子は男子に慣れている。まさしく美男美女の集まりで、廊下の中央をたわむれながら歩く足どりもスマートだ。
成績は決して悪くないけれど、生徒にも先生にも一目置かれている。それを逆手にとって楽しむような……アウトローとの境界をわざわざ踏むことで注目を集めたがる、そんなお祭り騒ぎのメンバー。
尖ったところか群れる様子か、はたまた派手な外見からか、誰かがスズメバチに喩え始め、彼らはチーム・フォネツと呼ばれている。
一般の生徒はちょっと怖そう、と遠巻きに彼らを眺める。でもそのきらびやかな群れに注がれる視線には、常に憧れの色が滲んでいる綾川高校のフォネツ、スズメバチ軍団。
物心ついた時には隣にいたわたしのかわいい弟分のイチは、今ではそんなフォネツの一員。いや、トップだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。