エプロンには、斜めに流れる金色の線と、その中に円が全体をぼかしたように入っている。写真でさえ、プリントじゃなくて染めや織りで出した柄だとわかる。ファンタスティックで幻想的。きっと有名なデザイナーさんの作品だ。
そこで春日部くんがちょっと口ごもった。
何も答えず、まじまじとわたしの顔を見つめている春日部くんに気づいた。
また思い込みの強い創作方面寄りの妄想炸裂で、春日部くんを引かせたのかと心配になり、あわてて弁解しようとした矢先だった。
なにか、横から凍てついた微粒子が漂ってきているのを感じ、そっちに視線を向けた。わたしと春日部くんが向かい合って話しているアイランドカウンターの側まで、イチが来ていた。イチは腕組みをしたまま春日部くんのお尻を、いい音をさせて足の甲で叩いた。
小学四年から空手道場に通っているイチ。特に足技がお得意らしい。足の甲を絶妙な力加減で狙った場所にクリーンヒットさせることがうまい。
春日部くんはつんのめってアイランドカウンターの角に腰をぶつけそうになった。わたしのほうに倒れてこないのは幸いだったけど、今のは完全に力加減を誤っていると思う。
すでにトレイに載せてあったプリンをアイランドカウンターから持ち上げて、春日部くんはあわただしくみんなのいるリビングに戻って行った。
話が頓挫したように感じ、わたしはきょとんと春日部くんの後ろ姿を見送った。
イチの友だちの華やかな人ともフランクに話せたことに、ちょっと高揚してもいたんだろう。話題が自分の得意分野だったからなのかもしれないけど、そんなに気負うことなく喋れたことが嬉しかった。
だからイチから突然そんなことを言われ、頭から冷水をかけられたような気がした。心底混乱した。わたしもしかして、イチに恥をかかせるような大きな失敗をした?
そりゃ……。イチの友だちだから気は遣うけど、正直楽しくなかったわけじゃない。
みんな見た目は派手だ。特に女子二人はこの間まで中学生だったとは思えないほどあか抜けていておしゃれだ。でも話してみると、みんな根っこはわたしと変わらない十五歳だとわかって、妙に安心もした。
そう思っているのはわたしだけなのかもしれないと、イチの言葉を聞いて考え始めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。