今日は縁日のまつり。
毎年恒例の花火大会もある。
今、慎くんを待ってるんだけど…
なかなか来なくて、
周りを見渡してみるけどやっぱ、慎くんらしき人はいない。
背の高いイケメンなんかすぐ見つけることできるよ。
巾着から携帯を取り出して慎くんの電話番号を押す。
prrrrrrrrrr
prrrrrrrrrr
何度も同じコールが私の耳に残る。
もしかして忘れてる?
昨日あんなに確認してきたくせに?
" あなたさんは忘れがちだから念には念を "
なんて言ってきてくせに!!
私の方がよっぽど優れてる…よ。
なんて強がるけど内心悲しくて、辛い。
神社の鳥居前。
人が沢山行き交うなか私は泣いた。
小さく泣いた。
誰にも見つからないよう、そっと。
せっかく新しい浴衣買ったのに…
可愛いって言ってもらうために。
少しだけ待ってみて来なかったら帰ろう。
仕方ない。
それから5分が経ち、私の思う方にはいかなくて
とぼとぼ下駄を鳴らしながら人混みに逆らう。
カラン、カラン、
自分の下駄の音が直で聞こえる。
周りの音なんかシャットダウン。
すっかり祭りとは雰囲気の違うところまで歩いてきた。
はぁ、、本気で忘れてる…し…
近くの公園に座ってもう一度慎くんに電話をかける。
prrrrrrrrrr
コールが切れて
と、切れた電話。
今から来ても遅いのに。
もう祭りは最高潮に盛りあがって終盤だ。
もうそろそろ花火も打ち上がるところだろう。
なのに、私は公園。
やっぱ、流れるのは大粒の涙で
一番、慎くんに忘れられちゃったのが辛い。
祭りなんか行かなくてもいい。
慎くんが隣で歩いてくれればいいの。
振り返ると大きく手を振って向かってくる。
暗闇の慎くんからどんどん視界が明るくなって
目の前にいる。
私の膝に手をついて見上げてくる。
そんな可愛い顔しても許してやんない…
真剣な目で私に訴える。
一緒ぐらい大事…か、
そう安心した顔で私にほほ笑みかける慎くん。
良かった、ほんとによかった。
ずっと出たいって言ってて、
自分が応募したオーディションだったから…
思わず立ち上がって慎くんの肩を揺さぶる。
そんな私のことなんて気にしないで欲しい。
って、めちゃめちゃ気にしてたのは、私だ。
私の悩みなんかちっさいもの。
慎くんの重大ニュースと比べ物になんない。
ぎゅっと握る私の手。
その手は熱くて脈が早い。
私のために走ってくれたのかな…
声に出すにつれて涙が溜まるのがようやく分かった。
私を大きな体で慎くんが受け止めてくれて安心。
耳元で伝わる声。
十分慎くんの温もりを感じ、離れる。
公園のライトでいい感じな大人の雰囲気がムンムンな慎くん。
やばい、かっこい…
迷うことなく、首を縦に振った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。