慎side
あなたさんがドアの前で泣いてると考えると
居てもたってもいられなくなって
鍵が開いた瞬間勢いよくドアを開けてあなたさんを抱き寄せた。
そういうとあなたさんは目をうるうるさせて私を見る。
わっ…、そんな目で見つめられたら気が狂う。
しかも密着…してるし。
ああ、やっぱ
" 私も好き "
とはなってくれない。
先が思いやられるな。
あなたさんをもう一度ぎゅっと抱き寄せた。
さっき思い出したんだが、壱馬さんと翔平さんと
遊園地に行く予定を忘れていたから。
ああ、仕事でどっぷり言われるだろうな。
しかし、暑いなぁ…
あなたさんは部屋に入れてくれて昨日居た部屋。
何か懐かしい感じ。
変わらない可愛い雰囲気のあなたさんの部屋。
昨日と今の雰囲気を知れてるのって僕だけ?
特別な気分になって1人浮かれてる自分。
キッチンで珈琲を用意するあなたさん。
微笑みながら僕を見つめるその顔は僕をいつまでも慣れさせない。
そして、珈琲の入ったコップを僕の前の机に置いた。
その横に、あなたさんも座る。
沈黙の時間が続き、何か話さないとと思った時、
あなたさんが口を開いた。
僕に見せるように髪の毛を少しの束を持ち上げた。
あなたさんの髪の毛にホコリ…
取ってあげるとビクッと小さくなる、
サラッと触れた髪の毛。
毛先を僕の指ですくう。
照れてるのか頬から耳が赤く染っている。
かわいい…
おっと、にやけてしまいそうだった。
危ない危ない。
うん、そう笑うあなたさん。
横顔を見つめる僕。
はぁ、まだ彼女の頭には " 壱馬さん " という人がいて
僕だけに染ってくれる事は無い。
あなたさんと一緒にいると楽しいし幸せ。
けど、それと同時にあなたさんの本当の思いなどが
見えてきてしまって僕の胸を痛めつける。
あなたさんの側にずっと居たいのに
居たら僕はあなたさんの思いの妨げになると
居ちゃいけない気持ちにもなる。
咄嗟に僕の口から出ていた言葉。
おいおい、何聞いてんだ、ばか…
苦笑いで珈琲の入ったコップを手に取って口に含む。
忘れれるもんなら
と、付け足した。
僕は、諦めた方がいいのか。
僕に振り向いてくれる日は程遠いと感じた。
いや、一生。
そうだよ。
というあなたさんの言葉で途切れた会話。
そんなとき
こてっ。
僕の左肩に暖かい重み。
あなたさんの頭。
コップを机に置いて僕の袖を掴む。
あ ~ 、僕ばっかそうやって期待させられてる。
ああ、そうか。
あなたさんの言った言葉の意味。
それは、あなたさん自分自身の気持ち、
壱馬さんへの思いを消すための僕であって本気の思いじゃない。
そんなこと言われたら考えてしまう。
今、めちゃくちゃ悔しくて仕方がない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!