部屋を見ると白衣が脱ぎ捨ててあったり、流しにはお皿が溜まっていたり…
私は我慢が出来ずに近くに放り投げてあったほうきを手に取り、掃除を始めた。
三十分くらい経った頃。部屋は跡形もなく片付けられていた。
その時、近くでカシュ、と今は聞きたくない音がした。
缶ビールの呑み口に口元が添えてある。
つまり一口呑んだという事だ。
一瞬、照間先生の表情が曇った。
もしかして、過去に何かあったのだろうか?
天田先生は気にせずあっけらかんと言ってのけた。
私と天田先生も次々とコンビニの袋からおつまみ、ほどよいを取り出し、私は塩ライチ、天田先生は芳醇ぶどうを開けた。
缶と缶同士がぶつかり、カコン、と気持ちいい音が鳴り響く。
一口呑み、ライチのかぐわしい匂いと塩の滑らかな海の香りが口の中に広がった。
まるで海の波打ち際でライチをまるごとかじっている様な感じがする。
果汁0%なのに、まるでライチが入っているかのような風味。最近のほどよい、恐るべし。
お姉ちゃんが居なくなってから、両親は明らかに放心状態になっていた。
父はまだかろうじて仕事が出来ていたが、母に関しては四六時中泣いてはボーッとしているの繰り返しで、とても家事が出来そうになかった。
それでも、私達は人間。当然お腹が減る。
だから、お姉ちゃんが居なくなった小学2年からずっと、ずっと家事をしていた。
勿論最初は包丁などの扱いがうまく行かず、手を切る事がしょっちゅうだった。
でも、包丁を″握るしかなかった″。
必ず、生きてお姉ちゃんに会う。だから、人一倍家事を頑張って、将来お姉ちゃんの病気を治せる様な医者になりたいと人一倍努力をして成績を上げて、お姉ちゃんに「沢山友達居るんだね」って褒められる為に人見知りを直した。
私の生き甲斐は、お姉ちゃん、それしかなかった。
そんな訳で、小学4年になる頃には家事全般は出来るようなった。
だからさ、お姉ちゃん。
帰って…きて…!
私は、自慢の妹になったはずだから、帰って来てよ!!
そんな事ばかり考えていた。
だからだろうか。私は医者の国家試験に落ちた。
それから勉強し直し、私は進路をガラッと変えて奇病特別看護師になった。
そっと天田先生の缶を持ち上げるとふわっと浮いた。持った感じ、もう飲み干したようだ。
そういうと天田先生は眠りについてしまった。
隣を見ると、いつの間にか寝ていた照間先生が目に写った。
そんな事を考えたがすぐに脳内から消し、照間先生と天田先生に近くに畳んだ毛布を掛け、二人にそっと
と言い、私も毛布を掛けそのまま眠りについた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。