…また、檻の中の生活。
首輪と手錠が付けられて、ほとんど何も出来なくなった。
できるのは鉄格子から外の綺麗な森を眺めることだけ。
でも、あの人のおかげで、毎日が楽しくなった。
朝も昼も夜も、『お父さん』が帰ってくるまで一緒に居てくれる。
こうやって、毎回聞いてくれる。
頷くと、口の前まで食べ物を運んで来てくれて。
細かくちぎってからくれる。
むせそうになると「大丈夫か?無理すんな」って優しめの声で言ってくれて。
たまに見る違う一面にドキドキするのも、あなたに近づかれると身体がどうしようもなく熱くなるのも…
全部『恋』のせいだと気づいた。
…流石に1度、「俺の事嫌いか、?」と聞かれた時はびっくりしたけど。
口ごもると、その人は「素直じゃねぇな」と言って、「でも俺が居ないと寂しいだろ」って挑発してきた。
流石にカチンと来たらしく、睨めっこ状態。
はぁ、とため息をついて、あの人はPCと共に帰って行った。
しんと静まり返った部屋に、「キューン」と自分の鳴き声が響いてる。
明日も、来ないのかな。
私のバカ、素直になれば良かったのに…
次の日も、その次の日も…餌の時以外は来なかった。
でも、もう私も限界で。
孤独に耐えられなくなって、餌の時にそっと手を引っ張った。
そう言うと、「やっぱりつまんなかったんだろ」と言って頭を優しく撫でてくれた。
その瞬間泣きそうになって、そっと地面に視点を落とした。
この人は背中を優しくさすってくれて、檻の中に入ってきてふわっと抱き締められた。
狭い檻に2人なんて窮屈だけど、何故か安心した。
唸ることすら出来なくて、自分の尻尾を見るとぶんぶん振っていて恥ずかしくなる。
尻尾は敏感なのを知らないのか、急に触ってきて「ひゃんっ…!」と変な声を漏らしてしまった。
話す内容が無くなったけど、不思議と気まずいとは感じなかった。
この人の温もりが心を満たしてく。
ケモノ臭い匂いと共に血の匂いがして、何かを狩って来た後なんだ、と思った。
もうそんな時間か。
この人は廊下に出ると、お父さんに何か説明し始めたらしい。
何か説得するような声と、「キューン」というキツネの鳴き声がした。
…新しいキツネ?
話し終わったお父さんが部屋に入ってきたと思うと、乱暴に私の鎖を外した。
それだけ言われて、私は廊下に体を打ち付けられた。
それと共に入ってきたキツネは…私に軽くウィンクをして来た。
まるで、「後は任せて」とでも言うように。
腕をさすり、立ち上がると、またあの光景に出会った。
今度は走らないように、ゆっくり。
そろそろと歩いて、出口まで辿り着いた、そう思った瞬間。
後ろから声を掛けられてびくっと身体が跳ねた。
帰る場所、なんて無いけど。
あの人は寂しそうに笑ったあと、「夜は雪降るから気をつけろよ」とだけ言った。
私はそのまま外に飛び出して、木々を眺めて…
子供のように遊んだ。
途中怖そうなヤマネコに追いかけられたけど、もう居なくなってる。
…でも、日が暮れるとやっぱり怖くて。
空に向かって鳴いていた。
しんと静まり返る夜の森。
雪が降ってきて、冷たくないはずなのに異常に冷たく感じた。
不意に後ろの前からキツネの声がして、ばっと振り返るとあのウィンクして来たキツネがいた。
どこかで見たことあると思ったら、収容所で一緒に取り残されてたんだ…
手を繋がれて、そっと引っ張られる。
…けど…
キツネは走り出して、あの家のところに戻っている。
私も引っ張られて、必死で走った。
家の前に着くと、中から声がして。
暖かい声と共に、あの人が出てきた。
キツネは飛びついてキャッキャ言ってたけど、私はやっぱり塩対応になっちゃう。
そっぽを向いて反応しないでいると、キツネとあの人は仲良さそうに家の中に入っていった。
…ガチャン、ってドアが閉まる音が鈍く聞こえた。
いつからこんなに、冷たくなっちゃったんだろう。
孤独が寂しくなったんだろう。
家の前でお座りして、そっとドアを引っ掻いた。
その音に気づいたのか、あの人が中から出てきた…けど真顔。
もう私の事なんてどうでもいいのかな。
泣きそうになりながら、ふとそんな事を思っていると、そっと近寄ったその人に抱き締められた。
…ほんとだ。
自分の頬を触ると、涙の線が出来ている。
あの白狼は、私を軽々と持って部屋に連れてきた。
あのキツネはどこに帰ったのか、もう居なくなっていて…
私は暖かいベットに横たわらせられた。
匂いが強くて、なかなか寝れなかったけど。
案の定フェロモンを放出してしまう私に、白狼は笑うだけだった。
しばらくたった頃、布団に乗って白狼は、不意にそう言い出した。
そのまま私の横に寝っ転がって、頭を撫でてくれる。
この生活が、永遠に続けばいい…なんて思ってしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!