第5話

孤独 へウォン※獣人パロ (3)
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2023/02/12 02:00
…また、檻の中の生活。

首輪と手錠が付けられて、ほとんど何も出来なくなった。

できるのは鉄格子から外の綺麗な森を眺めることだけ。

でも、あの人のおかげで、毎日が楽しくなった。

朝も昼も夜も、『お父さん』が帰ってくるまで一緒に居てくれる。

?
…肉、食うか?
こうやって、毎回聞いてくれる。

頷くと、口の前まで食べ物を運んで来てくれて。

細かくちぎってからくれる。

むせそうになると「大丈夫か?無理すんな」って優しめの声で言ってくれて。

たまに見る違う一面にドキドキするのも、あなたに近づかれると身体がどうしようもなく熱くなるのも…


全部『恋』のせいだと気づいた。


…流石に1度、「俺の事嫌いか、?」と聞かれた時はびっくりしたけど。
口ごもると、その人は「素直じゃねぇな」と言って、「でも俺が居ないと寂しいだろ」って挑発してきた。
へウォン
へウォン
そっ、そんな事ないし、
別に…1人の方が好きだし…
?
ほんとか?
なら今度から俺来ないけど
流石にカチンと来たらしく、睨めっこ状態。
?
…これだから嘘つきはきらいなんだよ
はぁ、とため息をついて、あの人はPCと共に帰って行った。

しんと静まり返った部屋に、「キューン」と自分の鳴き声が響いてる。

明日も、来ないのかな。

私のバカ、素直になれば良かったのに…
次の日も、その次の日も…餌の時以外は来なかった。

でも、もう私も限界で。

孤独に耐えられなくなって、餌の時にそっと手を引っ張った。
へウォン
へウォン
もうちょっとだけ、ここにいて…
そう言うと、「やっぱりつまんなかったんだろ」と言って頭を優しく撫でてくれた。

その瞬間泣きそうになって、そっと地面に視点を落とした。

この人は背中を優しくさすってくれて、檻の中に入ってきてふわっと抱き締められた。

狭い檻に2人なんて窮屈だけど、何故か安心した。

唸ることすら出来なくて、自分の尻尾を見るとぶんぶん振っていて恥ずかしくなる。
?
…尻尾、可愛いな
尻尾は敏感なのを知らないのか、急に触ってきて「ひゃんっ…!」と変な声を漏らしてしまった。
?
…ごめん
へウォン
へウォン
…大丈夫
話す内容が無くなったけど、不思議と気まずいとは感じなかった。

この人の温もりが心を満たしてく。

ケモノ臭い匂いと共に血の匂いがして、何かを狩って来た後なんだ、と思った。
?
…あ、父さん来た
もうそんな時間か。

この人は廊下に出ると、お父さんに何か説明し始めたらしい。

何か説得するような声と、「キューン」というキツネの鳴き声がした。

…新しいキツネ?

話し終わったお父さんが部屋に入ってきたと思うと、乱暴に私の鎖を外した。
塾の先生達
塾の先生達
…もう二度と、帰ってくるな
それだけ言われて、私は廊下に体を打ち付けられた。

それと共に入ってきたキツネは…私に軽くウィンクをして来た。

まるで、「後は任せて」とでも言うように。
へウォン
へウォン
いった…
腕をさすり、立ち上がると、またあの光景に出会った。

今度は走らないように、ゆっくり。

そろそろと歩いて、出口まで辿り着いた、そう思った瞬間。
?
…お前、もう帰んの?
後ろから声を掛けられてびくっと身体が跳ねた。
へウォン
へウォン
帰る…つもり
帰る場所、なんて無いけど。
?
…へぇ
あの人は寂しそうに笑ったあと、「夜は雪降るから気をつけろよ」とだけ言った。

私はそのまま外に飛び出して、木々を眺めて…

子供のように遊んだ。

途中怖そうなヤマネコに追いかけられたけど、もう居なくなってる。

…でも、日が暮れるとやっぱり怖くて。
へウォン
へウォン
クーン…
空に向かって鳴いていた。

しんと静まり返る夜の森。

雪が降ってきて、冷たくないはずなのに異常に冷たく感じた。

ソリュン
ソリュン
…クーン
不意に後ろの前からキツネの声がして、ばっと振り返るとあのウィンクして来たキツネがいた。

どこかで見たことあると思ったら、収容所で一緒に取り残されてたんだ…
ソリュン
ソリュン
寒いですし、一緒にあの人のところに帰りましょう?
きっと心配してますよ
手を繋がれて、そっと引っ張られる。

…けど…
へウォン
へウォン
迷惑掛けちゃうよ…
せっかく出るって言ったのに
ソリュン
ソリュン
気にしない気にしない〜
キツネは走り出して、あの家のところに戻っている。

私も引っ張られて、必死で走った。
?
…寒かっただろ
家の前に着くと、中から声がして。

暖かい声と共に、あの人が出てきた。

キツネは飛びついてキャッキャ言ってたけど、私はやっぱり塩対応になっちゃう。

そっぽを向いて反応しないでいると、キツネとあの人は仲良さそうに家の中に入っていった。

…ガチャン、ってドアが閉まる音が鈍く聞こえた。

いつからこんなに、冷たくなっちゃったんだろう。

孤独が寂しくなったんだろう。

家の前でお座りして、そっとドアを引っ掻いた。

その音に気づいたのか、あの人が中から出てきた…けど真顔。

もう私の事なんてどうでもいいのかな。

泣きそうになりながら、ふとそんな事を思っていると、そっと近寄ったその人に抱き締められた。
?
…泣いてる
…ほんとだ。

自分の頬を触ると、涙の線が出来ている。

あの白狼は、私を軽々と持って部屋に連れてきた。

あのキツネはどこに帰ったのか、もう居なくなっていて…

私は暖かいベットに横たわらせられた。

匂いが強くて、なかなか寝れなかったけど。

案の定フェロモンを放出してしまう私に、白狼は笑うだけだった。
?
…お前、ほんと可愛いやつだな
しばらくたった頃、布団に乗って白狼は、不意にそう言い出した。

そのまま私の横に寝っ転がって、頭を撫でてくれる。

この生活が、永遠に続けばいい…なんて思ってしまった。

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