遠くの方から声がする。
…多分、先生の声。今が何限かは知らないけど。
もうそろそろ起きないと、絶対…怒られる。
…トン、トン、トン、トン…
まずい、足音が近づいてきてる。
いや…ダメだ、体が言う事聞かない…
…あれ、何も来ないな…まぁいいや、寝てよ…
…ドンッ!!
不意に机に衝撃が走って、ゆっくりと身を起こした。
机を台パンしている、指が細くて可愛い手と…先生の綺麗な顔が見える。
目を擦りながら先生に尋ねると、「はぁ〜…」と呆れられた。
もう日は傾いていて、グラウンドにはサッカー部が夕日で輝いていた。
先生も窓の外を見ていたみたいで、少し微笑みながらグラウンドを見つめる先生は…綺麗だった。
急に向き直ったかと思うと、先生は照れたように顔を朱に染めてそっぽを向いてしまった。
投げやりにそれだけ言って、リュックを背負って教室の外に出る。
先生の焦った声を聞いて、そのまま走るのも可哀想になってきて、少しゆっくり歩く。
隣に並んで、俺の腕にしがみついて喘ぐ先生。
たまに咳しているのが辛そうで、自分より少し背の小さい先生の、小さくて繊細な背中を摩った。
本当に、実際に触ると、女性の肌はきめ細かいなぁ…なんて柄にもないことを思ってしまう。
先生も初担任でこんな生徒持たされて、可哀想に。
俺がずっと摩っていたからか、顔がまた赤くなっている気がする。
照れ屋で可愛い先生の頭をそっと撫でると、にひひっ、と笑いだした。
照れ笑いなのか分からないけど、笑ってるだけで綺麗。
少しの空白の後、耳を真っ赤にしながら、この二人きりの空間で尋ねてきた先生。
…何が聞きたいのかは全く分からないけど、俺の腕にまたしがみついていて…必死そう。
急に真面目な顔で聞いてきたので、思わず笑ってしまった。
次はすぐに質問してきて…でも内容にびっくりして、反射的に「居るけど」と答える。
急に横を歩いていた先生が目の前にずいっと出てきて、通せんぼするみたいに行く先についてくる。
はぁ…と溜息をつくと、先生も溜息をついて壁に寄っかかった。
誰が好きなのか…証明してあげないと。
そっと近づいて、先生の目の前に立つ。
そのまま更に近づいて、逃げられないようにした。
先生の両肩を壁に押し付けると、先生からの弱々しい返事が返ってきた。
オマケに先生の華奢な手が俺のお腹あたりを押しているけど、力が入ってないし震えている。
尋ねると、こくこくと頷く先生。
…生徒にこんな事されるのは、確かに怖い。
…ずっと俯いて、目をぎゅっと瞑って…震える下唇を噛んでる先生。
手っ取り早く終わらせたかったのに、時間が掛かってしまった。
なるべく優しい声で呼びかけると、涙目の先生が驚いたように上を向いた。
リップ音を立ててその唇を奪うと、目を見開く先生。
俺は…その後先生の反応も見る前に早足で校舎から出た。
…明日、会うの気まず…。
…ピピピピピ…
今日も…いつも通り目覚ましの音で目覚めて、ぼーっと先生のことを考えていたらいつの間にか正門まで辿り着いていた。
ミナが向こう側からやって来て、軽く挨拶して行った。
ミナは幼なじみなだけあって、高校生の今でも仲が良い。
とりあえず教室に入って、席に座る。
…まだ先生居なくてよかった…
多分、今会ってたら無視しているし、昨日の今日だからどう反応していいか分からない。
とりあえず仲良い男子と話して、気を紛らわすことにした。
って言っても、あと3分で朝礼。となれば、先生ももちろん来るし…。
とりあえずチャイムがなる前に着席すると、ちょうど先生が入ってきた。
先生の明るい声が教室に響くと、男子が「今日もかわいー」とか騒ぎ出す。
まだ大学生の先生は本当に人気で、美人だし話しやすいし、笑顔が眩しい。
距離感がバグってることもあって、誰に対しても抱きついたり、キスしたり。
人の恋愛話にのることもしばしば。
だからか…大半の男は先生に惚れるらしい。
…とりあえず、俺は机に突っ伏してっと…
長い長い、昼寝の時間が始まった。
ゆさゆさ、とぎこちない手つきで体を揺らしてくる先生。
それでも寝ているフリをすると、背中に先生の大きな2つの山が乗っかってきた。
流石に理性が壊れそうだけど、バックハグして胸を押し付けてくる先生には敵わなくて、結局そのまま寝てるフリを通し続けた。
…独り言が可愛いしうるさい。
仕方なく起き上がると、「うわぁっ!?」と大声を出して背中から遠ざかる先生。
失笑しながら言うと、「起きてたの…?気づかなかった…ほんまごめん…」って謝る先生。
上目遣いで見上げてくる先生が可愛くて、あの日口付けしたはずのその柔らかい唇にそっと触れた。
あの日のことを思い出したのか、また赤くなる先生が可愛くて…そっと抱き寄せた。
そんなこと言われたけど、お互い様だし…
こいつは自分がモテてる事を知らないのか…?
胸に顔を埋めてきて、照れたように言い訳している。
両思いなのは分かっても、干渉しすぎない。
それが、俺たちの間の暗黙の了解。
…あくまで、先生と生徒という立場な訳だし。
でも、ふたりきりのときだけ…甘えてくる。
毎日、放課後を狙って、この時間に起こして。
綺麗な髪の毛に指を通して、シャンプーの香りを嗅いでいると本当に彼女なんじゃないかと錯覚する。
毎日…あの日から、「好き」を確認するのも、先生らしくていいと思った。
いつか…『彼女』に変わればいいな。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。