ぴょんぴょんと跳ねる狐の足音に、獲物だ、と思わず捕まえたが。
…こいつ、お父さんの獲物だ。完全に。
じたばた暴れてるこいつに唸るように言うと、「触るなっ」「がるるっ」ばかり言ってやがる。
羽交い締めにしている手を解いて、背中から服を持って、半ば引きずる様にして部屋の中に入れた。
手頃なゲージの中に入れると、「キューン…」と鳴きやがる。
その顔を見て、自分が思ってたよりも全然可愛くて少し驚いた。
ゲージの中に肉を放ると、両手で持ってちゃんと喰ってる。
何も食べさせられてなかったようで、目をとても大きく開いてる。
…獲物に肉あげるなんて、何やってんだ俺。
食べ終わったようで、また「がるるるる…」と唸り出した。
ふと『可愛い』なんて感じてしまって、自分の気持ちに蓋をするように「グルルッ」と唸った。
獲物に好意を抱くなんて、俺は…本当に何をやってるんだ…?
一方その子は俺の唸り声に相当ビビったらしく、耳をぴたりと寝かせて上目遣いで見上げてくる。
その顔が、まるで「許して」と言ってるようで。
ついそんな言葉が口から出ていた。
ふと、あいつが呟いた言葉が可哀想になって来て、「肉と水は俺がやるから安心しろ」と口走ってしまった。
俺は昼は暇だし、狩りに参加するのはたった5時間だけ。
寝るのも2時間で十分だからほとんどの時間をPCで費やしている。
あいつは尻尾を少し左右に振って、耳もちょっと立ってる。
挑発するように言うと、「別に」と可愛らしくない返答。
その瞬間、しゅんと垂れ下がる尻尾と耳。
白いモフモフの尻尾が垂れ下がると、本当にいけないことをしてしまったようでこっちまで悲しくなる。
照れたようにそっぽを向いてるけど、耳が真っ赤。
こうゆうところを見ると『ツンデレも悪くないな』なんて思ってしまう。
──────…ギィーッ…
ドアの音がした。
お父さんが帰ってきた音。
獲物にゲージから出ろ、と合図すると、泣きそうになりながら出てきた。
ドアを開けたところにいた父さんに獲物を預けて、他の獲物を見物しにPCを立ち上げた。
…一刻も早く、あいつを引き取りたかった。
誰かのために尽くすのは、これが初めてかもしれない。
孤独が、怖かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。