『天使のお仕事』
☆11☆
私は階段を駆け登った!
涼介が居る!
そう思うだけで、気持ちはハヤった。
圭「あ、ねぇ!りりか!どこ行くの?」
り「屋上 行ってくる!」
圭人くんに手を振りつつも、勢いを止めず階段を駆け登った。
屋上の扉まで行くと、息が切れて…
でも、この向こうに早く行きたくて…
勢いよく、扉を開けた!
っ!ガチャッ!!!
屋上に降り立ち、2・3歩 歩くと、
キ〜〜ン バタンッ!!!
と、ゆっくりと扉が閉まった。
見渡しても誰もいない。
いつもの、日陰へ向かうと…
上着を枕にして、片腕で目を覆い、寝ている涼介。
やっぱりいた♡
私は隣に座ると、話しかけた。
り「どうして朝練、行かなかったの?」
何も答えない。
でも、私は知ってるよ。
こうしてても、いつも寝てないこと。
そして、私の話を、しっかりと聞いてくれてること。
☆12☆
り「試合前なのに。どうして?」
涼「・・・・・」
り「ナナミちゃんが言ってた。デリケートな時だからって。でもさ、プライベート持ち込むのって、皆んなに失礼じゃない?それに、大会は待ってくれないよ?最後の大切な大会だよ?ねぇ!涼介っ!!!」
っ!!!えっ!!!
涼介は、飛び上がるほどの勢いで、ガバッ!っと起き上がり、私の肩を掴んだ!
涼「オマエっ!誰だよっ!!!」
勢いで近付いた顔は、どこか怖くて…
でも どこか…
悲しげで…
涼「…もしかして……」
キ〜〜ン バタンっ!!!
扉が閉まる音で、誰かが来るのを察した涼介は、我に帰った様子で、手を離した。
涼「…なワケないか……」
そう言いながら、上着を拾い上げ、少しはたいてから、その場を立ち去った。
☆13☆
まさか…気付かれた……?
やばいよ…
私は、いつもと同じ様に、涼介に声を掛けた事を後悔した。
バレたら、終わりだから…
圭「りりか?こんなところで、どうしたの?」
涼介と入れ替わるように来た圭人くん。
なんだか、いつも心配かけちゃってるな…
り「えっ?ううん、何でもないよ?」
圭「……昨日の先輩と…何かあった?」
り「っ!は、はぁ?何かってなに?何も無いよぉ〜やだなぁ〜w」
圭「そぉ?」
うっ!//
け、圭人くんって、捨てられた子犬系男子なんだね…
その、上目遣い…
ハッキリ言って、可愛いよ〜w
り「あっ!そうだ!お弁当!早く食べよう?!ねっ!」
圭「…う、うん。そうだね。」
ごまかしながら、お弁当を開けると、いつもの私のお弁当とは違う、りりかちゃんのお弁当で…
圭「おっ!ヤッタァ〜!卵焼き♡も〜らいっ!」
り「えっ…」
☆14☆
それはまるでデジャヴだった。
私のお弁当に、卵焼きが入ってると、必ず涼介が先に食べちゃう。
だからお母さんに、卵焼き入れるなら、たくさん入れてと言っていた。
圭「りりかママの卵焼き、ホント美味しいね♡」
涼介も、いつもそう言った。
いつか お母さんの卵焼きを作れる様になりたいなぁ〜なんて、思ってたのに…
できなかったな…
そんな些細な事なら、やり残した事なんて、たくさんある。
私は改めて、生きてる事の意味を知った。
り「そんなに美味しいなら、圭人くんに全部あげるっ!w」
圭「ふふっw ホント?嬉しい〜!」
笑顔でパクつく圭人くんは、幸せそうで…
私の任務の終わりが近い事を、告げていた。
このままじゃ、ダメだ…
涼介を…
助けたい!!!
私の願いは、いつしか変わっていた。
愛されたいよりも…
愛してるに…
☆15☆
り「ママ?卵焼き教えて?」
母「は?ママって…」
り「ごめんねママ。私には時間がないの。だから、卵焼き覚えなきゃなの。お願い!」
そう頭を下げる私に、笑顔を向けた。
何度も何度も繰り返し作ってるウチに、手際も良くなり、熱の加減も覚えてきた。
り「よし!明日は自分でお弁当作るから!!!」
喜んでくれるかなぁ〜?
圭人くん。
と、涼介…
次の日。
私はお弁当をふたつ持って、学校へ向った。
おっ!朝練やってる やってる!!!
あっ!涼介だっ!!!
涼介の姿を見つけ、駆けよろうかと踏み出した瞬間…
足が止まった。
なんだろう…胸がざわめく…
涼介の隣には、ナナミちゃんがいて…
昨日とは別人のように、ふたりは笑い合っていた。
それは、私が見た現実だった。
☆16☆
涼介は…
前を向いている。
そう思ったら…辛かった。
私…忘れられちゃったのか…
シんだのに女々しい自分が、嫌だった。
そんな立ち尽くす私に声をかけたのは…
ナ「おはよう…どうしたの?」
優しそうな、ナナミちゃんだった。
り「あのコレ……涼介…先輩に…」
私は卵焼きのお弁当箱を差し出した。
ナ「自分で渡せば?涼介くん、今日はご機嫌だったからw」
り「でも…」
ナ「…いくら私がマネージャーでも…恋のライバルのお手伝いは、できないよ?w」
笑顔で言うナナミちゃん。
涼介がご機嫌だから?
ナナミちゃんも優しくなれるの?
本当に…恋してるんだね…
ナ「また、お昼に屋上行ってみたら?」
り「そ、それは…できません!」
昨日みたいに、バレそうになったら困るから…
☆17☆
り「す、すみませんが、お願いします!」
私は強引に、お弁当箱を押し付けると、走って逃げ去った。
卵焼きなんて…作らなきゃ良かった。
なんで、渡しちゃったんだろう…
このままじゃ、私…
涼介の事…振り切れないよ…
圭「あ、りりか…おはよ。こんな所で どうしたの?」
り「……うん…」
圭「…どうして?」
り「え?」
圭「どうしてそんな悲しんでるの?」
り「…ゴメンね、何でも無いの…」
圭「もう…見てられないよ…」
っ!!!え…やばっ!!!
いつもの圭人くんからは、感じられない、力強さ…
暖かい…
私は抱きしめられ、圭人くんの胸で泣いた。
圭人くんの その優しさは、私の傷口に沁みた。
もう…
サヨナラしなきゃだな…
りりかちゃん…お幸せに…
目を瞑ると、私は何かの光に包まれた…
☆18☆
神「おかえり!」
り「はっ!神先輩!」
神「早かったやん!任務簡単やったか?」
気づくと私は、薄っすらと霧がかったお花畑の中で、天使の神先輩と会っていた。
り「神先輩…私、ダメでした…」
神「任務は完了したんやろ?」
り「……天使のお仕事って…大したこと無いですね?」
神「なんや〜聞き捨てならないなぁ〜w」
り「恋のお手伝いだなんて…そんなのどうにでもなるよ…」
神「でもな?俺ら天使がキューピッドにならへん恋は、消えてまうんやで?」
でも…
私の恋は…
涼介との恋は…
本物だった。
あんなにも心がトキメクなんて…
本物以外に言葉がない。
り「…だったら……私、やり残した事がある……」
神「そうくると思っとったw」
り「えっ?」
神「申請したったで!」
そう言うと 神先輩は、キラキラしたハートが先っちょについたタクトを振った。
☆19☆
そのタクトの動きに合わせ、キラキラと流れ星のシッポの様に輪を描くと、空中にフワッと映し出された申請用紙みたいなの。
そこに書かれていた名前は…
涼介。
キューピッド__________________こころ
私だ。
神「過酷やで?きっと?」
こ「はい、承知で行ってきます!」
神「ほな〜行ってこぉ〜〜いっ!」
神先輩が私に向けて、もう一度 タクトを振ると、キラキラの輪の中をくぐり抜け、私はまた人間の中へと入り込んでいた。
キーンコーン♪カーンコーン♪
チャイムが鳴ると、皆んな一斉に動き出した。
お弁当を広げたり、財布を持って購買へ向かおうとしている。
そっか、お昼休みだ!
私は鞄からお弁当を取り出し、教室を見渡した。
もう 居ない…
よしっ!あそこだっ!!!
☆20☆
ハァ…ハァ…ハァ…
息が…
ガチャッ!!!
キィ〜〜バタンッ!!!
息が整わないまま、日陰のところまで行くと、やっぱり涼介が寝ていた。
ナ「ハァ…ハァ…涼介……?」
涼「・・・・・」
ナ「お弁当作ってきたの…どぉせ まだ食べてないんでしょ?」
涼「・・・・・」
ナ「…ママにね?教えてもらって作ったんだ…卵焼き。食べてみて?」
涼「・・・・・」
ナ「ねぇ、涼介〜!」
涼介の目を覆っていた腕を揺すり、起こしてみる。
揺れが収まると、涼介がこっちを見た。
涼「ふふっw」
どうしてか分からないけど…
笑いながら起き上がり、側に置いてあった お弁当を開いた。
涼「へっ?卵焼きだけじゃんww」
ナ「あ!ご飯 忘れた!!!」
お弁当箱いっぱいに詰められた卵焼きを見て、嬉しそうに笑う涼介は、昨日までとは違っていた。
涼「おっ!美味っ!すげーなオマエ!!!」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!