陽音side
怜央と仲良くなったのは、最近ハマりだした
競技かるたの話だった。
入学して1ヶ月たっても、怜央は1人だった。
一言、二言、話す子はいても、ずっと席に着いて
イヤホンで何か聴いてた。
1人でなんでもこなしてる怜央が気になって、
何度も何度も声をかけ続けた。
何度も話してるうちに、怜央もポツポツと
自分のことを話し出した。
大人っぽい見た目のせいで、近寄りがたく思われてること。おまけに口下手で人見知りな性格だから、中学の知り合いはいないし、孤立してたこと。
それから、お母さんが中2の時に病気で亡くなって、
今はお父さんと二つ下の妹さんと、父方の
おばあちゃんと暮らしているのも聞いた。
きっと、お母さんの訃報と重なって、もっと他人と
付き合うのが怖くなったんだと思った。
よく2人で行動を共にして、
行事という行事には、実行委員として参加した。
余計なお世話かもしれないけど、とにかく怜央には、人と関わる機会をたくさん経験してほしかった。
そのおかげか、だんだんクラスメイトも怜央と
話すことが多くなって、怜央も話すコツを掴めたんだと嬉しくなった。
そして、一躍、怜央が有名になったことがあった。
いつかの古典の時間。百人一首の授業で、
かるたをした。
トーナメント戦で、クラス1を競い合う。
もちろん、かるたなんて誰もがあまりやったことがなく、どこかみんなダルそうにやっていた。
だけど、怜央は違った。
普段とは違う空気をまとい、圧倒的差でどんどん
勝ち上がっていた。
週に何度か、怜央の家にお邪魔して、かるたをした。スポーツ以外でこんなに楽しいって思えたのは、競技かるたが初めてだった。
こうして、私は怜央と仲良くなった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。