挨拶し終わったその時、
突然、メガネをかけたくせっ毛がかわいらしい
先生が入ってきた。
武田先生は、現代文の担当の先生。
2年の授業もたまに担当してて·····
·····あと、かるたのことも少し話すし·····
みんな、びっくりしている。
県で4番目に強いってことだよね。
大きくうなずきながら答えると、武田先生は
「そうかー」と言いながら
"かるた"という単語が聞こえて、慌てて人差し指を
口に当てて、「しーっ」と合図してしまった。
でも、まわりにいた澤村先輩と菅原先輩には
聞こえてたらしく
首を傾げる先輩。
いつの間にかみんな集まっていた。
控えめに抗議するけど、届かなかった。
ああー、知られてしまった·····
ワタワタしながら話をさえぎり、
先生は不思議な顔をしながらも、青葉城西とのことをみんなに話し出した。
土下座得意なんて·····そんなはっきり·····
そう言うと、菅原先輩の顔が曇ったように見えた。
田中くんが先生にジリジリと迫る。
田中くんが説得しようとしても、菅原先輩の
目は揺るぎない。
菅原先輩、我慢してないかな?
大丈夫かな·····
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青葉城西との練習試合は、来週の火曜日
放課後の短い時間だから、1ゲームだけ行う。
学校のバスで行くとの事。
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部活が終わり、1人で坂を下っていると、坂ノ下商店の前で菅原先輩と影山が話をしていた。
すぐ後ろで、田中くんと日向の声が聞こえる。
肉まんかー
昼ごはん食べてないし、遠慮なく頂こうかな·····
私は影山の隣まで歩き、話に加わる。
チラッと影山を見る。
気まずくないのかな·····
きっぱりと言い切る影山。
いらぬ心配だったかな
田中くんはうつむき、苦しそうに話す。
田中くんって、すごく優しい人なんだな。
菅原先輩のことを思ってさ
菅原先輩は笑顔で影山の肩に手を置く。
·····菅原先輩のことも、心配なかったみたい
澤村先輩が肉まんの入った袋を持って出てきた。
すかさず、日向が受け取りに向かい、早速
食べ始めていた。
それを見ていた田中くんと影山はすぐに
日向に詰め寄る。
澤村先輩から肉まんを受け取り、1口食べる。
やっぱ坂ノ下商店の肉まん最高·····
騒いでいたせいで、お店から金髪にピアスを付けた
若い男の人が出てきた。
最初はびっくりするけど、その人は小さい頃から
顔見知りだった。
顔を合わせ、ペコリと会釈すると、片手を挙げてお店の中へ戻って行った。
そう言って、肉まんをまた1口頬張る。
田中くんが顔を赤くしながら、お願いされた。
そうだよね。日向たちは呼び捨てでタメなのに、同じ学年の田中くんや成田くんたちも、タメじゃないのは·····なんかね
菅原先輩にツッコまれた。
ペコペコしながら話すと、田中は感激してるのか、
すごい叫びまくってる。
菅原先輩は呆れ半分笑い半分でなだめてくれる。
そんな先輩の顔に少し笑みを向けた時、
スマホが鳴った。
あー、まずい。この時間にかける人は·····
耳をスマホの液晶画面から離したくなるほど、
大きな声が電話越しから聞こえる。
やっぱりかかってくると思った·····
通話を切って、軽くため息をする。
部活終わりでもあんな元気って尊敬するよ·····
菅原先輩がみんなに提案してるのを慌てて止める。
軽く助走をして、すぐに走り出す。
·····今日はもうおばあちゃんが夕飯作ってるよねー
·····やっぱ、部活はよくないかな·····
でも、やりたいって思っちゃったし·····
とにかく、今は青葉城西との試合!
集中、集中·····
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。