朝の4時
目覚まし時計が鳴って、モゾモゾと布団から抜ける。
パパッと身支度して、速急に作った鮭おにぎりを
食べて、昨日宣言した通り30分に家を出た。
学校に行きながら、陽音にバレー部のマネをすることと、先に学校に行ってる事をLINEで伝えた。案の定、返信は来なかった。
小さくあくびをもらした。
私も、かるたには体力も必要だから、軽く
ランニングするために5時に起きたことはあるけど、
4時はやっぱ眠い。
そして、寒い。
4月の朝はまだまだ冷え込む。黒と白のチェックの
マフラーを口元まで上げて気合いを入れた。
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学校に着き、そのまま体育館へと向かう。
近づくにつれ、日向くんの「田中先輩!」と呼んでる声が聞こえる。
私が挨拶すると、日向くん、影山くん、田中くんは
びっくりしたように私を見た。
私は田中くんが持ってる鍵を見た。
ドヤ顔の田中くんを見て、つい笑ってしまった。
こんなに笑ったの、いつぶりだろ。
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日向くんと影山くんは、レシーブを始めた。
キュッキュッとシューズの音が鳴る。
日向くんがグダーっと寝転んで休憩してる時、
影山くんがキビキビと隅っこで座ってる
私の元へ来た。
昨日から作っている「バレー部ノート」にスマホで
検索したバレーのポジションと役割を書き込んでいた
手を止める。
すぐにノートをリュックに入れ、
清水先輩に教えてもらった部室へと向かう。
部室に入ってすぐに大量のサポーターが入ったカゴが目に入った。2つ手にとって、体育館へ戻る。
左腕につけてる腕時計を見ながら思い、
校門の前を通り抜けようとしたら、見知った人が
体育館に向かっていた。
ぴょこんと頭のてっぺんに小さくはねてる灰色の髪。
思わず声が出て、しまったと思った。
だけど、時すでに遅しで、菅原先輩はクルっと向いて私を見ていた。
ハスキーな声で話しかけてくる菅原先輩。
そんなことをよそに、私の頭の中は軽くパニックに
なっていた。
え、菅原先輩には早朝練習すること、田中くん伝えてないよね?うん。菅原先輩に知られたら、澤村先輩に伝わるはずだし·····
田中くんいわく、澤村先輩は普段すごく優しいけど、怒るとめっちゃ怖いらしい·····
もしバレたら、田中くんが怒られちゃう。
日向くんと影山くんも。
私は、怒られる覚悟で来てるもんだしいいけど·····
とにかく今するべきことは·····
菅原先輩を体育館に行かせないことだ!
頭の中で整理して、深呼吸する。
面白そうに尋ねてくる菅原先輩。
私は手に持ったサポーターをサッと背中に隠す。
先輩に嘘つくのは耐え難いけど、1年生のためだ。
話し出そうとすると、菅原先輩に手を引かれた。
そのまま、校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下へ
連れていかれ、3段しかない階段に座らされた。
菅原先輩は私の前にしゃがんで、上目遣いでこっちを見た。思わずドキッとした。
じーっと見続ける菅原先輩を不思議に思っていると、ようやく口を開いた。
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菅原side
体育館に向かう途中、崎村さんと会った。
きっと、日向と影山の早朝練に付き合っていたんだと思った。田中同様。
慌てて言い訳する崎村さんの手を取って、渡り廊下に連れて行った。
単刀直入に言うと、観念したのか小さくうなずく
崎村さん。
澄んだアルトっぽい声が控えめに聞こえる。
小さく震えてる肩にポンポンと手で叩いた。
·····自分のことよりも、相手のことを思ってる、
優しい子だなと思った。
明るく言うと、安心したのか、強ばっていた顔が
ほころんでいた。
その様子に、少し胸が鳴った。
崎村さんの笑った顔、初めて見た。
素早く立ち上がって、体育館に向かう崎村さんの
背中を目で追う。
昨日の部活で清水に崎村さんと話したことを聞くと、人見知りな感じがしたと聞いた。
·····少しづつ、話せるようになるといいな。
崎村さんが笑顔で。
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早朝練は菅原先輩も混ざって、主に
菅原先輩と日向くんがレシーブ練習。
田中くんと影山くんがトスとスパイク練習を
していた。
私はそれを隅っこで見ながら、ぼーっと考えた。
去年の試合で見た影山くんのすごい速いトス、
日向くんなら打てるんじゃないかな·····と
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。