第5話

自分の気持ちと侑くん
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2021/02/01 21:58

その日から、交換ノートは自然と始まった。



私が図書委員だから、彼は毎回、ノートを図書室のカウンターに置いてくれた。



そして私は、気づけばそれを楽しんでいた。




ーー

北先輩、部活お疲れ様でした!


今度、差し入れを持って行きたいんですけど…嫌でなければ。


侑くんとも話したいし!


ーー




ーー

せやな、あいつも喜ぶと思う

ーー




交換ノートというにはあまりに短い文章。



でも、本当に楽しい。


北先輩はあまり話さない。


話さないというか、なんかしっかりしている。


部室掃除をしているのを見かけたこともあるし、ボールを磨いていたのもみた。



頑張ってるんだなぁって、いつの間にか目で追ってて。











いつの間にか、好きになっていた。









放課後、図書室



侑「…なぁあなた」



あなた「わっ」



私たち2人以外いない図書室に、私の声が響いた。



い、いつのまに…!



あなた「ど、どうしたの?」


侑「んーん、今日部活ないねん。『動きすぎも良くない』って、北さんが」


''北さん''という言葉にドキッとする。



ほんっと…会ったばっかりなのに、意識しすぎでしょ。



侑「暇やねん、構ってや」


あなた「いーよ、構う」


にひひ、といたずらっぽく笑うと、彼はプイッと目を逸らした。


侑くん、どうしたの…?



あなた「構うって言ったのに」


侑「…なぁ、そのマスクなんやけど」


あなた「…うん」


侑「俺だけ特権で、見せてくれへん?」



……え。



あなた「…ごめんね。それは無理かも」


侑「そうなん」


沈黙が続く。


何か話題を探すが見つからない。


そうだ、マスクしている理由。


侑くんには、話してもいいかな…。



あなた「…私が、なんでマスクつけてるかなら言うよ」


侑「ふぅん…なんでなん?」


あなた「…人の視線が怖いから、かな?自分のこと見られてなくても、見られてる気がするの。自意識過剰だよね」







あなた「…気づいたら、本当に誰にも見られなくなってた」



勉強を頑張った。


美容に気をつけた。


人の話に合わせた。



なのに、誰も見てくれなくなった。



私が皆を求めないから、皆も私を求めなくなった。




空気みたいな、存在_________













侑「俺は見てる!」



その言葉に、パッと顔をあげる。



彼は、いつになく真剣な表情をしていた。


侑「俺がお前を見てる!やから、そないおもんないこと考えんな!」



どんっ、と背中を押された気がした。



マスクをつけて初めて、人に認められた気がして。



すぅっと心が軽くなっていく。




あなた「……ありがとうっ」


侑「おう!」



2人で笑い合う。


幸せ、だなぁ…。





侑「…あ、そういや、交換ノートどうなっとん?」


あなた「続いてるよ。すっごく楽しいの」


照れ隠しで笑ってみせると、彼は少し不満げな顔になった。


侑「……それ、やめてもええよ」


あなた「え?」


侑「交換ノート、」


あなた「…まだ続けたい。今の唯一の楽しみだから」


侑「…そ」


侑くんは「もう帰るわ」といって、図書室を出て行ってしまった。












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読んでくださりありがとうございました!

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