ーー
なぁ、夏川さんって好きな人おるん?
ーー
それは、あまりにも突然だった。
相変わらず綺麗な短文。
でも、いつもと違う。
『好きな人』?
これは、少女漫画でよくあるシチュエーション。
相手に好きな人を聞かれ、主人公は自惚れてしまうという場面。
あんなの馬鹿らしい、私ならそんな自惚れたりしない______
そう思っていた。
いざ目の前にすると、主人公の気持ちが痛いくらいによくわかる。
もしかしたら、あの人は私のこと__________
期待したくて、したくない。
そんな矛盾した考えが脳内を駆け巡る。
私は、筆箱からボールペンを取り出して返事を書いた。
ーー
いないですよ笑。
いきなりですね。
北先輩はどうなんですか?
気になるなぁ〜
ーー
うん、我ながら良い文章。
私の好意は、きっとこれならバレない。
ほんのちょっと嘘をついた。
バレるのが怖くて。
でもいつか、伝わると良いな。
私の、初めての気持ち__________。
??「…夏川」
あなた「わっ!」
後ろから声をかけられ、思わず肩が浮く。
そこにいたのは、侑くん…ではなく、双子の治くん。
あなた「治くん、どうしたの?ってかここ2組…」
治「ツムに用があんねん」
あなた「あー、侑くんならさっき出て行ったけど…」
治「嘘やって、俺がほんまに用があんのは夏川や」
あなた「わ、私!?」
何か悪いことしたかな、前のこと、怒ってるかな?
あなた「ご、ごめんなさいっ」
治「は?何謝ってんねん。俺怒っとらんよ」
あなた「…え?」
治「…これ、」
彼が差し出してきたのは、A4の一枚のチラシ。
『夏祭り 7月26日、開催!』
治「なぁ、夏川………これ、一緒に行かへん?」
遠慮がちに聞いてくる治くん。
夏祭り、か…。
怒ってるわけじゃなかったんだ、良かった。
あなた「うん、行く!楽しみだね!」
治「…おん」
彼は分からないくらいに小さく微笑む。
あなた「可愛い…」
治「は?」
あなた「あっ、」
治「連れて行かんぞ?」
あなた「やです!楽しみだなー!!」
大袈裟に声を出すと、彼は満足そうに帰って行った。
あなた「これからは可愛いって言わないようにしよ…」
??「何をや?」
あなた「わーもう!ほんっとに!!」
双子って何なの!?
治くんと同じ現れ方をした侑くんは、私の手元にあるチラシを覗き込んだ。
侑「…サムと行くんか?」
あなた「うん!」
侑「言っとくけど、これ俺も同伴やで?」
あなた「そうなの!?余計楽しみ!」
彼を見上げ、ニコッと笑いかける。
チラシを覗き込んでいた彼と、ぱちっと目が合う_________
侑「近……」
あなた「ご、ごめん…!」
バッと視線を下に戻す。
顔が熱い。
やば、バレてないかな……。
侑「…やっと意識してくれたやん」
その言葉の意味が、私にはよく分からなかった。
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読んでくださりありがとうございました!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!