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第1話

序章 逃走中って知ってる?
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2018/03/23 08:26
何故止めなかったんだろう。
何故参加してしまったんだろう。
何故あの時本気で注意しなかったんだろう。
そうすれば、きっと…
こんなことにならずに済んだはずなのに───










「逃走中って、知ってるよな?」


帰り学活も終わり、みんなが帰り支度をする中そう聞いてきたのは、幼馴染の時雨浩太(しぐれこうた)だ。

そうだ、俺も自己紹介しとこ。
俺は津木馬悠(つきま ゆう)。
スポーツはあんまり好きじゃないけど脚には自信がある。



「知ってるよ、テレビでもやってたりするし。あれだろ?決められたエリア内で決められた時間ハンターから逃げ切ると賞金が出るやつ。」

「そーそー!」

「それがどうしたんだよ。」

「なんかさ、昨日この手紙がポストに入っててさー。往復はがきっぽいんだよね。」
そう言い、はがきを俺の前に出す。
真新しいはがきみたいだが、表には宛名、つまり浩太の住所とかが書いてある。
だが、送り主の住所や名前は書いていなかった。
裏を見ると、印字の文章が書かれていた。
逃走中に参加しませんか?
参加は自由です。
ルールは簡単。
一週間、ハンターから逃げるだけです。
逃げ切ると賞金一兆円が貰えます。
お友達も誘って是非参加してみてください。
参加する人の名前を下の空欄に記入し、そのままポストに投函してください。
意味がわからない。
自分の住所を書いていないくせに届くのだろうか。
そもそも一週間?一週間もどうやって逃げ切れって言うんだ!?
「…何だコレ。」

「だろ?不思議だろ?しかも逃走中だぜ?」

「いやそれ以前に一週間とか言ってる時点で怪しさMAXだろ、お前これ参加する気?」

「足には自信あるしw」

「お前なぁ…」
確かに浩太は俺よりも速い。
俺は50m走6秒台なのに対し、アイツは5秒台を平気で叩き出している。
たまにこいつが鬼ごっことかで鬼になったらヤベぇんじゃねぇのとか考えた事がある。
まぁ、逃げる側でも相当だけど。
「食料とかは?」

「はがきにわざわざ一週間って書いてあるってことは、そのへんはサポートしてくれるんじゃね?」

「ポジティブ過ぎるだろ…もっとこう、ちゃんと考えたらどうなんだ…」

「だーってよー、そんな細かいこと気にしてたら将来ハゲるぜー?」

「細かくないしお前は大雑把すぎるんだよ…(汗」

「あーそうそう、お前も参加してもらうからな!」

「はぁ!?聞いてねーぞ!!」

「あと美奈ちゃんも連れてくつもりw」

「美奈も…?」
西条美奈(さいじょうみな)。
俺のクラスにいるマドンナ。
でも美奈には密かに狙ってるやつがいるらしい。
で、マドンナって言うからとかそういうんじゃないけど俺も浩太も美奈を狙ってる。
「な?参加したくなってきたろ?」

「流石に断るんじゃないか…?」

「いや、聞いてみたらすんなりOKだぜw友達も誘ってくるらしい。」

「ふーん…」

「ほら、吊り橋効果とかでなんかなるんじゃない?」

「逃走中って2人とか複数人で逃げると不利にならね?」

「あー…まぁそのへんはね?」

「…しょうがないなー…」

「お?お?」
浩太と美奈と他の友達?多分女子なんだろうけど…女子二人と浩太を一緒にしておくのはなんか心配だ…!
浩太は昔から生粋のトラブルメーカー。
だから色々やらかして大変なことになる予感がする…
つー事で"仕方なく"参加することにした…
「参加するよ…ほっといてもめんどくさいことになりそうだし…」

「よっしゃー!じゃあ早速書くわー!また後でな!」
浩太は自分の席に戻り、はがきに名前を書いていく。
俺はそれを遠目で見ていた。
友達連れてくるって言ってたけど、誰なんだろうとか、呑気な事考えながら。


──俺達は知らなかった。
このはがきの言う"逃走中"が、俺達の知っている逃走中じゃないってことを。

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