第198話

after story 5
12,022
2022/03/13 13:43





『うん』



軽く首を縦に振る


その瞬間母親の顔から優しさが消えたのは気のせいだろう



母親「ほんとにいい子、帰ろっか」



そう言ってまた母の手が頭をなぞる


その手にもう温もりはなかった


ひとたまりも


ハッと我に返った時にはもう遅かった


私の手首をがっしりと掴む母の手は


もう二度と離さないと言っているかのように


固く、固く握られていた


何をしているんだ


自分には帰らなきゃ行けない場所があって


待ってる人たちがいて


大好きな人がいるって言うのに


なんでこんな所で簡単に魔物に着いてこうとしているんだ


こんなにも無力なままで


自分の欲に負けるような弱者のままで


それでほんとにいいのか


そう問いかけた時、すぐに答えは出た



『お母さん、やっぱりごめん』



手を引く母親をそう告げ


進行方向を変える


今ならまだ逃げられる



「何言ってるの」



なんて思ってる自分が馬鹿だった


既に私の負けは確定していた


鋭い目付きが私をとらえ


固く握られていた腕にもっと力が加わる


思わず顔が歪み、恐怖が襲ってくる


この感覚だ


怖い


ただそれだけだった


大人になっても反抗しようとしない体は


昔の記憶を脳内再生させることしか出来なくなっていた



『痛いっ、離してっ』

母親「あなたが行くって言ったのよ」



反抗する私を虫でも見るかのような目で見つめる


分かっていたのに


飲み込まれた自分がいけないのだ



母親「逆らうことも出来ないくせに」



そう吐き捨てると


私の手首から手を離し振り上げる


呼吸をまともにすることも出来なくなった体は


ただ殴れるのを待つだけだった















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