リビングに入り、ただいま、とだけ言って
自分の部屋へ向かう
階段を上っている途中で、翔太とすれ違う
いつも通り、なんて言っても
やっぱり少し気を張ってしまう
なんて思っていれば、すれ違いざまに目が合う
『あっ、』
なんて、慌てる私を見て
ふわっ、と笑ったあと
渡辺「ただいま」
とだけ言って頭を撫でて階段を下りていった
階段に一人の子された私は
まだ、撫でられた感触が残っている頭に
そっと手を置く
なんとも言えない感情のまま
部屋に入りベットに横になる
自分からあんなこと言っておいて
何故かいつも通りになってしまったことが悲しくなる
翔太のことも、蓮のことも、
ちゃんとけじめをつけて、これでいいはずなのに
翔太や蓮と女の子として過ごしていた時の自分が羨ましくなる
2人にはバレているだけ
それ以外は何も変わっていない
それで正解なはずなのに
どこか胸がモヤモヤする
『だめだ、やめよう、』
部屋着の上に上着を1枚だけ着て
財布とスマホだけ持って部屋を出る
リビングに顔だけだす
『ちょっと、コンビニ行ってくる』
向井「え、こんな時間に?」
『うん、すぐ帰ってくる』
向井「ついて行こか?」
そんな康二に、大丈夫、とだけ返せば
阿部「雨降るかもだから傘も持っていきなよ」
なんて、隣の椅子に座る阿部ちゃんにも
そう言われる
うん、とだけ返してから
頭を冷やしがてら、外の空気を吸いに
シェアハウスを出た
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!