第165話

163.
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2021/12/18 08:05



阿部side









みんなで楽屋を出て車へ乗り込む


秋が本当は女性だって知って驚いた


でも、驚いただけ。


そんなこと、秋が今隣にいないことに比べれば


どうでもよかった


いつも秋がいるはずの席には


俺の荷物が置いてある


大好きな彼の姿はない


秋はいつも窓側で外の景色をただただ眺めてた


そんな秋の横顔は見入ってしまうほど綺麗だった


白い肌に、前髪のかかった目


高い鼻に、ぷっくりとした唇


すごく綺麗な横顔だった


だけど、いつもどこか悲しそうで切なそうな顔をする


どんな時だって、


秋の顔を見れば消えてしまいそうな顔をしてた


そんな顔が俺はたまらなく嫌いだった


そんな顔、して欲しくなかった



『秋、』



名前を呼べば、



『ん?』



なんて言って振り返って



「なにっ、?阿部ちゃん」



そう言って目を細くしながら聞いてくる


そう、この顔が大好きなんだ


秋の笑ってる顔に何度救われたか、


秋が隣で「阿部ちゃん!」って言ってくれるだけで


どんなに幸せだったか


ずっと続くと思っていたのに


もう隣にはいない



『秋、』



大好きな彼の名前を呼んだって


あの笑顔はない


秋がジャニーズに入ってきた時のことも


すごく鮮明に覚えてる


俺が初めてしゃべりかけた時は


怯えたような顔で下を向きながらしか話してくれなかった


でも、毎日喋りかけているうちに


どんどん目を見て喋ってくれるようになって、


笑ってくれるようになって、


気づけばいつでも俺の隣に


ピッタリとくっついて、


俺も気づけば秋が隣にいることに安心感を持ってた


隣にいてくれるだけでいい


それだけでよかった


なのに、今はいない


今思えば、秋からのSOSなんて沢山あった


あの悲しそうな顔も


急に「大好きだよ、阿部ちゃん!」なんて言ってきたことも


昨日の様子だって


全部、全部おかしかったのに


なんで止めることが出来なかったのだろう


昨日、あのまま部屋に戻らなければ


秋は今も俺の横で笑っていたかもしれない


何も知らなかった。


全部知ってるようで何も知らなかった


気づけば目からはボロボロと涙がこぼれる


必死に拭うけど、止まることを知らない涙は


どんどんと俺の袖を濡らした



深澤「阿部ちゃん、」



肩を叩かれて、気づけば家に着いていた


家に入ればそのまま自分の部屋へ行って


泣いたって秋が戻ってくる訳でもないのに


声を出して泣いた
















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