阿部side
「ごめん、俺のせいで」
阿部「いいの」
「ちゃんと弁償するね」
阿部「だから、本当に大丈夫だって」
俺の破れた着替えを
なぜか秋が泣きそうになりながら
見つめていた
阿部「でも、これからは無くなると思うよ、嫌がらせ」
「そうだといいな」
阿部「されても俺が守ってあげる」
「え、?」
そんな言葉に顔を上げた秋の頭を
ぐしゃぐしゃと撫でれば
もう、理解不能だというほどに
目をまん丸にさせていた
この可愛さを俺しか知らない
阿部「今日から亮平でいいよ」
「え、?」
阿部「さっきからそればっかじゃん」
「だって、今日の阿部くん本当に変だもん」
阿部「だから、亮平でいいって」
「でも、」
阿部「俺も秋って呼ぶから」
そう言った俺に
その時の秋の嬉しそうな顔は
いまだに覚えている
阿部「ほら、呼んでみてよ」
「亮平、くん、」
阿部「えー、くんいらない」
「まだ緊張するもん」
阿部「なにそれっ、」
俺と目を合わせないままそういう秋が
今思えば新鮮で、可愛かった
今は、周りが阿部ちゃん阿部ちゃんって呼ぶうちに
秋までそう呼ぶようになっていた
最近は俺にばっかりわがままを言うし
そっけないし、でもたまに甘えてくるし
最高にツンデレなやつになったけど
俺はちゃんとあの頃の犬みたいな秋のことを知っているんだ
俺だけが。
「阿部ちゃん、何笑ってんの」
阿部「いやー、別にー」
「こわ」
阿部「秋」
「なに?」
阿部「亮平くんって呼んでみて」
楽屋の中で、俺の前でスマホをいじってる秋は
はぁ?なんて言いたげな顔をした後
「なつかしっ、」
なんて言って笑った
そんな笑顔にはちゃんとあの頃の面影が残っていた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。