第16話

14.
22,666
2021/09/28 12:00






『失礼します』



呼ばれた理由は何となくわかっていた


きっと男装していることについてだろう、


椅子に座っている滝沢くんの机を挟んで立つ


目は合っているのに、


滝沢くんは何も言わなかった


かと思えば急に口を開く



滝沢「ジャニーズは男性アイドルだけの事務所だ」

『はい、わかってます』

滝沢「何が言いたいかわかる?」



全くもってわからなかった。


滝沢くんの顔を見たまま


首を横に振る



滝沢「俺はこの事務所に君がいることにまだ納得していない」

『え、?』



それから、あの時の顔を思い出す。


ようやく、この人の言ってる意味がわかった。



『待ってくださいっ、!』



何がなんでも、それだけはダメだ。



『嫌です。お願いです、お願いだから、もう少しだけ、あの場所にいることを許してくださいっ、!』



Snow Man。


それが俺の居場所で


この場所以外、俺の居られる場所はなかった


体を曲げて頭を下げる


そんな俺にまた、滝沢くんの声がする



滝沢「じゃあ、質問を変えるね、君はなんでここを辞めたくないの?」



ゆっくりと顔をあげれば


目が合った。


怖かった。


でも、逸らせなかった。


それしたらこっちの負けだ。



『今、やめたら、Snow Manに少なからず支障が出るからです。』

滝沢「大丈夫、退所しても、君が女性だということはもちろん伏せる」

『でもっ、』



まるで、もう退所することが


決まっているかのように


そんなことを言う



滝沢「本当の理由は、?」

『え、?』

滝沢「本当の理由だよ、本当にここにいたい理由はそれじゃないでしょ、」



それから、また口を閉じる


滝沢くんの言う通りだった。


今、俺がここにいたい理由


Snow Manにいたい理由は


俺がこの場所が大好きだから。


それだけだった



『好きだからです。この場所が、』

滝沢「好きだから、それだけでいられる世界じゃないよ」

『わかってます、でもっ、』

滝沢「結局は自分のためなんでしょ、」



何も言い返せなかった。


結局は、俺がここにいたいから。


いないといけない理由などないんだ。



滝沢「次までに、退所届。持ってきて、」



悔しさからか、


涙が溢れそうだった。


足音が隣を通って、ドアの方へと向かっていく


ここで戦わなかったら一生後悔する


居場所を無くした俺に、


ジャニーさんが、せっかく与えてくれた


大好きな場所なのに


そんな簡単に手放せるわけなかった



『嫌です。』



それから、俺の後ろで足音が止まる



『退職届も書かないし、Snow Manからも抜けません。』



体の向きを変えて、滝沢くんの目を見る


怖くて仕方がなかった



『だから、どうか、お願いします。バレるまでは、ここにいさせてください。お願いしますっ、!!』



もう一度、深々と滝沢くんに向かって頭を下げた


部屋の外から、


滝沢くんのマネージャーの声が聞こえて


滝沢くんが「ああ、すぐ行く」とだけ応える


そして、俺の方を向く



滝沢「バレたら、?」



少し卑怯だと思った。


自分の口から言えってことだろう。



『事務所を辞めます。』



それでも、バレなければいいだけの話だ


そんな俺の言葉に納得したように頷いてから


部屋を出ていった。


それから、もう一度頭を下げた


また腫れてしまった目を


一応トイレで洗い楽屋に戻る



『ごめん、遅くなった、』

目黒「ほんとに、めっちゃ遅かったね」

『ごめんごめん』

ラウ「それで?滝沢くん、なんて言ってたの?」

『えー、ひみつ』

ラウ「えっ!?なにそれ!?」



やっぱり、この笑顔が見れるここが


俺の居場所でありたい。


そう思った。


ラウールの頭を撫でたあと


阿部ちゃんと目が合ったから


大丈夫だよ、という代わりに


いつものように笑って見せた


とりあえずまだここに入れてよかった


バレるまで、ここにいられる。


バレなければいいのだ。


今まで通り、バレなければ。







プリ小説オーディオドラマ