阿部「動画、消してくれる?」
丁寧にそういう阿部ちゃんに
聞こえてないかのように
え、やば!!、なんて騒ぎ始める
_「え、ジャニーズやめても仲良いの?」
_「大人の事情ってどうせ汚いやつでしょ?」
_「お金でもみ消したとか?」
_「それだったらつるんでないっしょ、」
阿部ちゃんが来たことで
もっと面白くなったと思っているのか
そんなことを言い合う
ちら、と阿部ちゃんの方を見れば
珍しく機嫌の悪そうな顔をする
阿部「秋、」
久しぶりに呼ばれたその名前に
ワンテンポ遅れながらも
「あ、なにっ、?」
と返す
阿部「いこ」
それだけ言ったかと思えば
私の腕を掴み
そのまま集団を離れてく
それでもしつこいのが彼らだ
かっこ悪いままじゃ嫌なんだろう
_「おい、まてよ」
そう言って
ガラの悪い男の人が私を掴む前に、
ぐい、と抱き寄せられる
何よりも安心する匂いが
一瞬で私を包んだ
阿部「迷惑ってわかんないかな?」
_「は、?」
阿部「もういい大人でしょ?少しは考えたら?」
丁寧で、紳士に、
大人らしい言葉を言う阿部ちゃん
でも、見ればわかる
どれだけ機嫌が悪いかぐらい
阿部ちゃんは怒らせない方がいい、
何度かの喧嘩でそんなことは学んでいた
丁寧な言葉を吐き捨てるようにして
私の腕を掴んだままどんどん歩いていく
「ちょっ、阿部ちゃんっ?」
くるっ、と角を曲がったかと思えば
ピタッ、と止まってから
私と視線を合わせるようにする
「なんか、ありがとね、尊敬しちゃった」
私が怒らせた訳でもないのに
何故か気に触らないようにそんな言い方をすれば
大きなため息の後に
びっくりするぐらい強く抱きしめられる
「ちょ、っ、苦しいって、!!」
そんな私の言葉を無視して
ぐしゃぐしゃと私の頭を掻き回す
戸惑いながらも、やっぱりどこか安心した
親からの温もりも、愛情も知らないけど
何故か少し似ている気がしたのかもしれない
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。