第2話

最初の一生
39
2019/06/13 09:34
あの日から、俺は仕事の合間を見計らっては彼女に会いに行った。
話せば話すほど、彼女が魅力的に見えてくる。仕草や言葉だけではない、とにかく、俺は彼女にひかれていった。
ある日俺は彼女に想いを伝えた。
あなたのことが好きだ。身分違いなのは分かっている。でも、どうしようもなく好きなんだ、と。
私も、と彼女は言った。
彼女は涙ぐみながら笑った。
その顔が愛おしく、触れたくなった。
彼女の頬に触れた瞬間、指に焼けるような痛みが走った。
「う"っ、、、、」
「きゃあっ」
俺の手は火傷をしたかのように赤くなっていた。忘れていた。彼女は女神だ。彼女に触れることは、俺にとっては聖水に触れることと同じなのだ。
「あぁ、、私のせいで、、。」
「気にしないでシフォン。どうか泣かないでくれ、、」
「ごめんなさい、ごめんなさいデイジール。あなたを、、傷つけてしまった、、。」
今すぐ抱きしめてやりたいのに、それが出来ないなんて、、。
(悪魔になんて、生まれて来なければ良かった)
「なあ、俺は大丈夫だよ、シフォン。俺だって、愛しい人に泣かれたらつらいんだ」
「、、、デイジール、、。」
「なあ、もうこのことは忘れよう!楽しい話をしようぜ!そういや、今日御局様がよぉ、、」

彼女には、笑顔でいてほしかった。
手は痛かったが、顔に出さないようにした。
もしも言ったら、お人好しのシフォンは俺のためにと、もうあってくれなくなりそうだからだ。それは嫌だった。


本当のことを言うと、神が悪魔と親しくなること、ましてや恋仲になるのは禁じられている。俺はそのことを知っているが、彼女が知っているのかは分からない。
バレなければいい。
バレたとしても、俺一人の責任ということになるはずだ。 そう、考えていた。



その日、いつもの様に俺は彼女の所へ行った。
「シーフォン、よっ!」
「デイジール!今日も来てくれたのね。」
しばらく話をしていると、シフォンの顔がこわばった。何事かと思い、たずねようとしたとき
「やつを探せ!!デイジールを見つけ次第、直ちに知らせよ!!」
「なっ!!?」
この声は俺の上司の上司の悪魔の声だ。ということは、バレたのか?!
「シフォン!お前は逃げろ!」
「そんな!!嫌よ、デイジール!そもそも私はここから出られないの」
「そんな!!?っちくしょう!どうすりゃいいんだよ!!!!!」
足音と声はだんだん近ずいてくる。このままじゃ、もう二度とシフォンに会えなくなってしまう。
「デイジール」
ふと、彼女はおれの目を見て言った。
「あなたは、私のことが好きなのよね」
「?ああ、もちろんだ。俺は誰よりもお前を愛している。」
「なら、」
グイッと腕を引っ張られた。
「私と一緒に、死んで!!」
「えっ?」
次の瞬間、俺は水の中にいた。
腕が焼けるように痛い。いや、実際焼けているのかもしれない。だが、俺は構わず彼女を抱きしめた。身体中が痛い。息ももう出来ない。それは彼女も同じようだった。
2人でどんどん落ちていく。
ここは泉じゃなかったのか?まるで底がないようだ。まあ、いいか。これだけ落ちれば奴らには見つかるまい。とくに思い入れのなかった一生だった。シフォンに出会うまでは。


朦朧とする意識の中で、俺達は互いを抱きしめる力を強くした。

そうして、俺と彼女は死んだのだった。







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前回ので、「シフォン」が「シホォン」になっていました。すみませんでした。

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