やっと思い出して僕は毎日病院に足を運んだ
あなたの両親に会って、自分の不注意でこうなったと伝えても、咎められることなんてなかった
クマができている
きっと、ここ何日もまともに寝ていないのだろう
それは、僕も同じだった
いつ死んでしまうかわからない
こわい
もう、失いたくない
記憶を取り戻したのがこうなってからなんて
こうなってから縋るなんて
あなたが眠っている病室に入る
栗花落さんは、あなたの手を握っていた
彼女も毎日見る
あなたのベッドの傍にある椅子に腰掛けて、あなたの頬に手を滑らした
枕元にある機械は、あなたが辛うじて生きていることを示している
どこかの物語みたいに、キスとか涙で目覚めてくれればいいのに
でも現実そう簡単にはいかない
お医者さんが言ってたのを聞いたことがある
本人の意思が強ければそれだけ目覚める可能性が高くなる、と
僕に突き放されてどんな気持ちだっただろう
僕に彼女ができたと聞いて、どんなに苦しかっただろう
きっと彼氏と別れたのも僕のせいだ
図書室でもあなたの様子はどこかおかしかった
元気がまるでなかった
これほどの傷を胸に負って、はたしてあなたはそれでも生きたいと思うだろうか
僕なら、いっそこのまま死んでしまいたいと思うだろう
僕は栗花落さんとは逆の手を両手で包み込んだ
その手を自分の顔に近づけて、おでこにくっつけた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。