「お前あなたのこと好きなんやろ。」
あれから数日後、同じ劇場の楽屋で急に河井さんがそんなこと言うから、飲んでたお茶吹き出しそうになる。
「…河井さんもでしょ。」
「河井さんも、ちゅうことは好きなのは認めるんやな。」
「別に勝手に憧れてるだけなんで誰にも迷惑かけてませんもん。」
河井さんがニヤニヤしながら俺のこと見てる。
「なんですか、自分がイケメンやからって、」
「いや、ちゃうて、今度飯誘ってみたらええやん。」
「こないだ誘おう思たのに河井さんが先言うたから。」
「あ、そうやったん。ごめんな、知らんかったからさ。」
「別にもういいですけど。」
しょうもない兄弟喧嘩みたいな言い合いをしてると、ちょうど楽屋にあなたさんが入ってきた。
「おはよ〜。」
「おはよ。」
「おはようございます、」
「あなた、なんか稲田がお前に言いたいことあんねんて。」
「は?」
「え、なになに。」
「ちょっと河井さんほんまに性格悪いですよそれは。」
「ええからはよ言わんかい。」
「なによ、めっちゃ気になる!はよ言うてっ。」
最悪や、河井さんまたニヤついてるし、あなたさんもおもろいこと期待して目キラキラさせてるやん。
「いや、、、あの、今日、ご飯行きませんか。」
「…私と?二人で?」
「嫌やったら全然、あのー水田さんとか誘うんで大丈夫です、すんません…」
「嫌ちゃうよ!嬉しい!稲ちゃんから誘ってくれるの珍しいし。」
にこにこしながら俺を見るあなたさん。
…あれ、なんか思ってた反応とちゃうな。
「よかったやん。」
「よかったやん、じゃないんですよ。」
あなたさんが楽屋を出て、河井さんが他人事みたいに言うから、ちょっとだけ睨んだ。
「ほんまは僕みたいなんから誘われたくなかったけど、河井さんがいる手前断られへんかっただけかもしれませんやん。」
「そういうことする奴ちゃうのよう知ってるくせに。」
「そうですけど…。」
「まぁ楽しんできたらええやんけ。」
「ていうかなんで僕の背中押してるんすか、ライバルにもならんってこと?」
「いや、そもそも俺あいつのこと好きて一言も言うてないし。」
「えっ、あんなに仲ええのに?」
「おん。仲ええのは同期やからってだけやて。」
まさかの真実にびっくりしつつ、ちょっと安心もした。
河井さん相手なんか勝てへんもん、、、
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!