濱家隆一×年下後輩芸人
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「濱家さん、あの、」
「ん?」
振り返った先輩の濱家さんが、私を見つめている。
「あー…すみません、やっぱりなんでもないです!」
「え、」
逃げるように楽屋を出て行く私を、不思議そうに見送る濱家さん。
「……..はぁ、やっぱ無理、、、」
「何が無理なん。」
「わ、リリー、」
自分の楽屋に戻ってきて盛大にため息を付くと、同じ楽屋だった同期のリリーが冷めた顔で私を見ていた。
「リリー…いや、リリーさんと呼ばせてください。」
「なに、気持ち悪いな。金なら貸さんよ。」
「お金で解決できたらどんなにいいか…そうじゃなくてね、どうしたら自分に自信持てますかって、、、」
「自信?あ、1ステ目滑り倒したん?」
「違う!今お笑い関係ない!男女の話してます!」
少し声を張ってリリーに強い視線を送る。
「こわ。ほんで話が見えん。」
「いや、ごめん。あのさ、リリーはよく女の子たぶらかしてるわけじゃない?それって自分に自信ないとガツガツいけないわけよ、普通。」
「まぁたぶらかしてるっていう人聞き悪い言い方するんやったら、何もアドバイスはせんけど。」
「リリーさんすいません、女の子と仲良くしていらっしゃる、って意味です!」
「…んー、まぁええか。」
「そんなリリーさんに助言をいただきたいんです!」
「何の助言よ。」
「ご飯の誘い方、とか…?」
「そんなもん、ご飯行こーでええやん。」
「それが言えないから困ってるんでしょーがっ。私なんかから誘われて濱家さん困るに決まってるもん!」
あ、やば。
そう思った時にはもう遅くて、さっきまでスマホ片手に話を聞いていたリリーが、にやにやしながらテーブルにスマホを置いた。
「お前、濱家さんと飯行きたいんや?」
「ねぇほんとに内緒にして、よりによって濱家さんと仲良いリリーに知られるなんて最悪だからほんと…」
「別に本人には言わんよ。普通に誘ったらええやん。」
「でも後輩から誘うのってどうかなーとか、私みたいなペーペーが、あんな活躍してる先輩にご飯行きましょって言える?って話よ。」
そもそも私の名前もフルネームで知ってくれてるのかもわかんないくらい、遠い存在に感じてる。
私がただただ憧れてるだけだから。
「大丈夫やって、自分が思っとるほどあなたは悪ないし。」
「ほんと、、、?」
「おん、そうやってどうしようって顔しとるの意外と可愛い。」
「…たぶらかされてる?」
「ちゃう、ほんまに言っとるって。」
自信持っていけ。
そう言って、楽屋から袖に移動するリリーは、私をからかってるわけではなさそうで。
「…よし。がんばろ。」
なんとか自分を奮い立たせて、もう一回濱家さんを誘いに行くことにした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。